★フェリシアーノと赤いばら

「はい! なまえちゃんにプレゼント〜」

 そう言って渡されたのは、両手に収まる小さなブーケ。八重咲きの真っ赤なバラはツンデレ紳士が頭をよぎったけれど、目の前のナンパなイタリア男子もこれはこれで様になる。そういえば、この前ルートがバレンタインに同じものをもらって挙動不審にしていたっけ。ドイツ人に赤いバラをあげる意味を、彼は教えてあげなかったのだろうか。女としてこういうものをもらってうれしいと思わない訳ではない。いや、素直にうれしいと思う。けれど私もルートと同じくドイツ人であって、さすがに一瞬誤解してしまった。

「フェリ、一体どうしたの?」
「あのね、花屋さんで見かけてきれいだな〜なまえちゃんに似合いそうだな〜と思ったから!」

 ほらね、やっぱり。

「うれしいんだけど、受け取れないよ」
「えっなんで!?」

 私がバラの花をフェリに返すと、それはもうたいそう驚いて悲しそうな表情を浮かべている。う、罪悪感が心にぐさぐさと刺さってくる。ルートはなんだかんだでフェリに甘いけれど、私がちゃんと教えてあげなきゃ。

「この前ルートは説明しなかったのかな……。あんまり軽々しくドイツ人に赤いバラは上げないほうがいいよ。勘違いされちゃうから」

 私みたいに一瞬の勘違いで済む人もいれば、ルートみたいにしばらく引きずり夜通し悩む人もいるだろう。もちろんフランシスほどではないけれどフェリも女の子が好きだから、それはそれで良いのかもしれないけれど。

「んんんんー」
「フェリ?」
「菊に言われて遠回しにやってみたけど失敗した……」
「なにが?」

 頭を抱えてうなるフェリに声をかけると、悲しそうな顔からいつもの気の抜けた顔に戻っている。菊に言われてって、何を? イタリア人の思考回路はクレタの迷宮よりも難解だから、説明してくれなきゃ分からない。

「勘違いじゃないよ。俺はそのブーケをドイツ人の感覚で受け取ってほしかったんだ〜」
「……赤いバラを? 私に?」
「うん」

 遠回しというのは、遠回しの告白、ということ。フェリが誰に、私に? 自覚すると一気に恥ずかしくなってくる。

「ねえねえ、これ、受け取ってくれる?」

 差し出されたバラのブーケは、一回目よりも輝いて見えた。自分から返品したくせに、おずおずとそれを受け取るとブーケがつぶれる勢いでフェリに抱きしめられる。フェリの香水とバラの香りに、なんだかめまいがしてきそう。

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