★ハルトの恋路を応援する先輩

※暗い、短い


「本当、ショーコは勝手すぎるよ。先輩もそう思いますよね?」
「でも結局ハルトが折れるんじゃない」
「そ、そうですけど」
「そういうところが好きなんでしょー?」
「な、何言ってるんですか!」

 真っ赤な顔して否定しても、意味ないよ。あーあ、もう少ししっかり否定してくれたら私も嬉しいのに。部活の休憩時間になるやいなや、眉根を下げたハルトがやってきた。かわいいなあ、なんて思っていたのもつかの間。手のひらを顔の前で合わせて「少し良いですか?」と言う彼の様子で何の話か分かってしまった。もっと楽しい話題の時に話しかけてほしいんだけど、なんて絶対に言えない。「良い先輩」でいなきゃ、ハルトの心のなかにいられないから。

「だって、ああいう破天荒なところが好きなんでしょ?」
「…………」
「ふふ、真っ赤だよ。かーわいい、トマトみたい」
「からかわないでくださいよ、もう」

 こういうやりとり、普通は男女逆なんじゃないだろうか。からかってなんかいないよ、本当にハルトのことを、愛しいなあ、と思って見てる。ちょっと弱気だけど協調性があるところ、自分の意見はちゃんと言えるところ、部活に一生懸命取り組んでるところ。でも、それを私よりよく知ってる人がいる。よりにもよって同じ部活だから、ふたりが仲良さそうにしてるところは嫌でもよく見る。あれで付き合ってないというんだから、世の中って残酷だ。いっそ付き合っているなら、諦められたかもしれない。

「すいません、せっかくの休憩時間に僕の相談なんて」
「良いの良いの。先輩だからね」

 自分で言って自分で傷つくなんて、本当にばかみたい。自傷癖なんてないはずなのに。心臓にナイフを突き立てられてるみたいな痛みが私をおそう。本当は、ハルトの背中なんて押したくない。彼女の元へ走りだすハルトを呼び止めて、その背中に抱きついて、泣きながら「行かないで」って言いたいよ。だけど私は「良い先輩」だから、そんなみっともないことできない。たとえ私の大嫌いな子でも、ハルトが彼女を好きだと言うなら応援しなきゃ。

 ハルトの幸せと、私の幸せが同じだったら。
 そんな想像をして、私はまた私を傷つけるだけだった。

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