「神童っていつも難しい顔してるよな」
チームのデータを円堂監督と一緒になって見ていたら突然そんなことを言われた。正直自分ではそんな自覚はまったくなかったので、少しだけ驚いた。
「難しい顔ですか?」
「あぁ、今も難しそうな顔してる」
そういえば前に霧野にも同じことを言われたことがあった。お前はいつも難しい顔して色々考えてるんだなと言われたのはいつの日のことだっただろう。
まったく自覚がないので自分の顔がどんな風になっているのかなんて想像もつかない。苛々しているような顔なのか、考え込んでいるような顔なのか、それとも怒っているような顔なんだろうか。
「ほら、また難しそうな顔してるぞ」
円堂監督の声で俺は一人黙々と考え事をしていたことに気付かされた。何か言わなければと口を開こうとするも、うまく言葉が見つからない。
「俺は神童の笑った顔が見たいな」
そんな俺を見かねたのか円堂監督はそう言って笑った。そういえばここのところ笑ったことなんてなかったかもしれない。サッカー部のことや学校のことでいっぱいいっぱいで笑う余裕なんてなかった。
笑っていたとしてもそれはきっと作り笑いでしかなく、本当の意味で最後に笑ったのはいつだろう。もしかしたら俺は笑うことなんてとうの昔に忘れてしまったのかもしれない。
「神童」
目の前の円堂監督の笑顔が眩しい。眩しい笑顔という言葉は円堂監督のためにあるんじゃないだろうか。そう思うとふっと口元が緩んだ気がした。
「うん、今の顔の神童のほうが俺は好きだよ」
俺の小さな表情の変化に気付いた円堂監督が満足そうに笑った。そうだ、これが笑うということなんだ。
今はぎこちない笑顔だけど、きっとこれから本当の笑顔になっていくはずです。それまでどうか一緒に俺たちといてください。いつか一緒にあなたと本当の笑顔で笑えるその日まで。