円堂監督は最近俺の頭をやたら撫でたり触ったりする。別にそれが嫌な訳じゃない。ただ理由も言われずにされるがままなのがちょっと気になっているだけ。
理由を聞こうと切り出してはみるものの、いつも途中で言うのを躊躇ってしまい、理由は未だに聞けずじまい。そして今も円堂監督は俺の頭をぽふぽふと触っている。
「あの」
「ん?どうした?」
「なんでもないです」
ただ一言なんでこんなことするんですかと聞けばいいだけなのに、また言えない。こんなことも言えないなんて俺って意気地なしだなと思っていたら、円堂監督が今度は二つに結んである髪の毛を触ってきた。
「速水の髪の毛って触り心地いいよなー」
結ばれた髪を梳かすように触った後、頭の上の方に円堂監督の手が戻ってきて、その手はそのままぽんと頭の上に置かれた。
「だからつい触りたくなっちゃってさ。あ、もしかして触られるの嫌いだったか?」
だったら悪かったと言って円堂監督がぱっと俺の頭から手を離した。さっきまでなんともなかったはずなのに、離れていってしまった円堂監督の手を何故だか少し寂しく思ってしまった。
このままではもう今までのように頭を撫でられることもなくなってしまうのかと思うとそれはとても勿体無いことのように感じられ、俺は慌てて返事をしようと口を開いた。
「嫌いじゃないです、けど」
嫌じゃないことを伝えたくて言葉を口に出してみたものの、語尾に向かってどんどんと小さくなる俺の声。これじゃぁ今の声も円堂監督の耳に届いているかも怪しい。
「そっか、ならよかった。じゃぁ速水、改めて触ってもいいか?」
どうやら俺の声はちゃんと円堂監督の耳に届いていたらしい。そして嬉しそうな顔でそんな風に言われたら断れる訳がない。小さくどうぞと言えば円堂監督の手が俺の頭をさっきみたいにまた優しく撫でた。