今日だっけ?忘れてた。 6/6



――一週間ほど前から同じ夢を見ていた。


雪がちらついている雷門中学校の校門前、日は既に家に隠れて辺りは薄暗い。
そこに涙を浮かべて私が立っている。
誰かをただ待ち続けている。

小さい水色の髪を靡かせて、走ってこちらへやって来る少年。
彼はどこか嬉しそうな顔をしていた――。


そんな一場面の夢を見続けて、あの少年が彼氏の倉間典人だと気付き始めたのは、丁度三日前。
そして今日は夢に悩まされて重大な忘れ物をしてしまった。

「……やっぱり怒るかな?」
「そりゃあ、怒るでしょ? あんたたちは付き合ってるんだし。こんなビッグなイベントを忘れてしまう方がすごいと思うわ」

友人は呆れながら、そして私と典人との関係がどうなるのか興味津々だった。

「……売店かどこかで買ってこようかな」
「私なら嫌だな。明らか『コイツ忘れてたな』って勘付かれるよ」
「じゃあ、どうしろっていうのよぉ!」
「ここは素直に謝った方が良いと思うよ?」

私は友人の助言に従う事にした。

典人はサッカー部に所属しているので、帰りはいつも遅い時間になる。次々とサッカー部や他の部活動の部員等が片付けを済ませ、校門を通って帰っていく様を私は寂しく見送った。

彼を待つ時間があまりにも長く、苦しい。私は次第に本当に謝って許してもらえるのか不安になった。視界は次第に歪み、肩で息をしはじめる。そしてフッと夢のあの場面が脳裏に浮かんだ。

――あれは正夢だったのか。

そうだとすれば、典人はにこにこしながらこちらへ来るのだ。
きっと私からバレンタインチョコを貰えると思って。

――どうしよう、お願い来ないで……。

そう願っても時は刻一刻と流れてしまう。
典人が私を呼ぶ声が聞こえた。

「名前、ごめん。待たせたっ」
「……典人! あの、その……実は……」

どう言えば彼は傷つかないか、無駄に脳が働いて逆に何も思い浮かばない。取り敢えず、典人に見つからないよう零れ落ちそうな涙をそっと拭き取った。

「…………典人」
「……謝らなくて大丈夫だぞ?」
「えっ?」
「お前の友達が俺のクラスに来て、事情を教えてくれた。アイツってちょっとお節介な所があるな」と笑いながら私に言う。
「多分名前は約束を忘れてるんだろうから、俺が教えてやる」

典人は鞄から薄桃色のラッピングが施された箱を取り出し、私に差し出した。

「去年、ホワイトデーのお返ししなかっただろ? だから俺から名前へバレンタインの日に渡す約束をしたんだ」

なーんだ。
心配する必要なんてなかったんだ。

ちゃんと最後まで見させてほしいものだわ。

こんなあたたかいチョコが貰えるなら。


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