精一杯のチロルチョコ 3/6



これは想定内の出来事だった。
けれど、付き合っている相手から貰うバレンタインチョコが、まさかコンビニで20円で売られているあのチョコ一つだけだと、期待したこっちが馬鹿らしくなった。

「が、頑張って手作りしてたのよ!?」
「……あぁ、苗字のことだから予想が付く。料理下手なお前が手作りチョコなど不可能だという事も、ここにインプットされてあった」

コンコンッと人差し指で軽く頭と叩いて見せて、その後、思い切り彼女の手のひらに座っている忌まわしいチョコにその指を向けた。

「だが、何故チロルチョコなんだっ?! 理解が出来ない……俺はお前にとって20円の存在なのか!」
「そんな事無いよ! 鬼道は私にとって大切な人だもん!」

そうか、分かったぞ。
あれか、値段ではなく気持ちがこもっているという事なのか!
そう解釈していいんだな? お願いだからそうだと言ってくれ。

「もうちょっとマシなチョコを買おうとは思ったんだよ? でも私、手作り諦め切れなくて、気付いたら登校時刻でした!」

何故、そこでそんな爽やかな笑顔が出来るんだ。

「それで……コンビニで買ったと?」
「うん。でも何だか恥ずかしくて……部活が終わるまで待ってたという訳です」
「俺は朝に渡されなかった分、心の奥底で期待していたんだ……」
「……ご、ごめん」
「いや、謝らなくていい。ただの一日限りの行事だ、やらないカップルだってざらにいるしな」

俺が余程ショックな顔をしていたのだろう。苗字は俺が取ろうとしたあのチロルチョコを瞬時に開いて唇で挿むとこちらの方を見つめてきた。

『何だ?』と言おうとした時、苗字は思い切った様子で俺に急接近し、挿まれたチョコは軽く開いた俺の口へ入った。

苗字からキスをされるのはこれが初めてで、その行動が"キス"だと確信した時、俺は赤面した。そして彼女の舌でチョコは押されて完全に俺の方に収まる。

離れると同時にふわりと当たる下唇と彼女の淡い舌。
言葉が無くても感じられる気持ち。

あぁ、俺は苗字を愛している。

「20円じゃなくて、世界でたった一つのチョコになった!」


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