受け取ってください! 2/6
「やはり豪炎寺には敵わないな」
「いや、鬼道も結構貰っていただろう。それに俺のは」
「『義理』と言いたいのか? 女子の様子からしてほぼ本命と理解した方が良いと思うぞ」
「……なぁ、サッカーやろうぜ?」
放課後になって甘い香りがする小さな袋や箱は、手洗いに行く前の倍になって豪炎寺の机に現れた。流石にこれだけの量を運ぶ事は困難で、これから部室へ行くのに山のように詰められたチョコは邪魔でならない。
「それでどうする? この量は皆に妬まれるなっ」と鬼道は不適に口元を吊り上げた。『皆』というのはサッカー部の、特にチョコをあまり貰った事の無い者を今は差している。
それに対して豪炎寺は眉間に皺を寄せて、皆からの痛い視線を想像した。
「……今この三人で処理しないか?」
「えー、練習に遅れる!」
「それにこれだけのチョコを三人というのは、苦しいぞ?」
「もちろん、全部とは言わない。鞄に収まる数にしたいんだ」
そうして円堂、豪炎寺、鬼道vsチョコレートが始まった。
「円堂。チョコを早く食べ終われば、すぐに練習にいける」
「おうっ! 練習のために! オレはやるぞ!」
「よし、円堂もやる気になった所でまず鞄に詰めよう。始めは箱状のものでチョコレートの量が多いものを渡してくれ」
ここは天才ゲームメーカーの鬼道の出番だった。幸運にも今日は宿題が出されず、鞄にも余裕があった。次々と鬼道の手によってチョコレートは収納されていき、ついには隙間さえも、袋状のチョコレートで埋められた。
「さ、流石だ。鬼道!」
「ふっ、朝飯前だ。これで残ったのは、箱が五と袋が十一……」
「うわぁ……これには十二個もチョコが入ってるぞ!」
「一粒一粒を数えると四十はある……」
「すまない。出来るだけ多く俺が食べる!」
そうして一番初めにチョコに手を伸ばしたのは豪炎寺だった。それに続いて一粒一粒を口に運ぶ円堂と鬼道。口の中はミルクやホワイト、ビターといった味で覆われ、次第にスピードが遅くなる。
「き、気持ち悪くなってきた……」
「水を、飲んできても良いか?」
「あぁ、俺はもう少し食べてから行く」
円堂と鬼道は早々と教室を出て行った。
一人残された豪炎寺は、先程から気になっていた箱をチョコレートの山から引っ張り出す。
木戸川清修から雷門中へ転校してきて以来、アイツに会っていなかったな。まさか、マンションの一階で待ち伏せているとは思ってもみなかった。
「苗字……」
箱を開けると辛うじて形作られているハート型。
あぁ、そういえばアイツは女性に必要な器用さがゼロに近かったな。
そんな不格好なハートでも、割って食べたくはなくて、豪炎寺の口には少し大きいサイズのチョコは勢いで口の中に放り込まれた。
「……うんっ、美味い」
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