嫉妬なんて求めてないわ 1/2
あの金髪馬鹿。
名前は何って言ったっけな。
「ディーノー!」
「よく来たね、名前。待ってたよ♪」
そうだ、ディーノだ。
俺の女の古い友達だとよ。
「スクアーロ、久しぶり♪」
「う゛ぉぉい、俺に話し掛けんじゃねぇ」
俺だって少しは考えてたんだよ。
"二人"で過ごすクリスマスぐらいな。
招待状がアイツから届かなきゃ、名前だって「ディーノに会いたい」なんて馬鹿な事は言わなかっただろう。それ以前は素朴ながらクリスマスケーキを買おうとか、ヴァリアーでパーティーしようとか、一人で廊下を飾っていたんだ。
「名前、ダンスは好きかい?」
「うん、好き! でもリードは必要よ♪」
「……そうはさせねぇ!」
俺は二人の間に割って入って、剣を突きつけた。坊ちゃんでマフィアのボスになった訳ではないようで、腰に隠し持った鞭を瞬時に装備し、俺と距離を置く。俺の片腕にはしっかりと名前がいた。
「別に名前を奪おうなんて思っていない。ただダンスに誘っただけだ」
「コイツは少し甘い餓鬼でな。見張ってないと俺の気が済まねぇんだ」
過保護だね、小鳥は飛びたがっているのに。と鞭をしまってソイツはまた次から次へと流れ込んでくる招待客の対応を始めた。俺はゆっくりと伸びた剣先を地面に下ろす。すると今度は俺の腕を振り払って俺の前に名前が立ちはだかった。
「スクアーロは何でそういう言い方しか出来ないの?! 久しぶりに会った友達なのに、ダンスぐらい踊ったっていいじゃない!」
「お前は俺の気持ちが」
「分かんないわよ! スクアーロだって私の気持ち分かってないくせに、自分の感情を押し付けないで!」
何故だろうか。
こんなにも周りにハイヒールを履いて、詰まらない日常を語る女等がいるのに、自棄に名前が俺から離れる乾いた音が大きく、そしてはっきりと聴こえた。止める事も出来たはずなのに、謝る事も容易な事なはずなのに。憎たらしい意地が彼女に背を向けさせた。
「最悪なパーティーだ」
笑える……そうさせたのは自分自身なのにな。
* * * * *
パーティーが中盤に差し掛かった頃、俺はテラスで風に当たっていた。月夜に光る自分の剣を見つめてみたり、時折耳に入るディーノと名前の声を追ってダンスホールを眺めてみたり。
時間はあまりにも遅く流れていた。
ニ、三回ほど名前が俺のところに来た時があったが、それはディーノと写る自分の写真が欲しかったからで、俺は使いのような存在にすぎなかった。
そして俺もそれに流されて、言葉が出なかった。
そろそろ終わり頃なのだろう。流れていた音楽は次第に激しさを隠して、大人びた雰囲気を表現し始めた。
カツン――カツン――あの乾いた音が俺に近づくのを感じた。
「ヴァリアーは背中を向けちゃ駄目なんだよ?」
「……俺に隙なんてない」
「そうだよね。だってスクアーロだもの」
カツン――また音が鳴った。
「本当はね、私をディーノから遠ざけた時、嬉しかったんだ。私を守ろうとしてくれた行為が、私は幸せ者なんだって感じさせてくれた」
「…………」
「でもね、私はスクアーロに守られてばかりで甘えてばかりで、少し寂しいなってのも今日思ったの」
ハイヒールが一歩近付く。
きっと数センチの距離感しかない。
「あのね、私……うん。その、えーと」
「あなたからのお誘いが欲しいの!」
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