優しさに感謝 1/2



壁に掛かったカレンダーのある一日だけ、日にちに赤丸が付いている。

カップルがイルミネーションを見る日。
サンタクロースがプレゼントを持ってくる日。
家族で豪勢な夕食を食べる日。

どれも私にとって当たっている様で違う。

十二月二十四日は私の誕生日って決まってるのだ。

でもどうした事だろう。
部活が終わって家に帰ってみると、鍵が閉まっていた。一階も二階も完全に真っ暗だった。仕方なく、合鍵でドアを開ける。サプライズでもあるのかな、なんて安易な考えを思い浮かべたが、それらしき雰囲気さえ無い。

私は自分でリビングの電気を付けて、テーブルの置手紙を見つけた。

「……信じられないよぉ」

両親は急な用事で実家に帰っていたのだ。

* * * * *

追伸で書かれていた冷蔵庫のケーキを取り出した。一人でホールケーキを切り分け、一人でそのケーキを食べる日がこんなにも早く来るとは思っていなかった。

寂しさを紛らわしたくて、食べずに地面に投げつけて、踏みつけたかった。けれど、今日はどんな事があっても一人。跡形も無いケーキを片付けるのも私、一人だけなのだ。

「こんな風に誕生日を過ごすのは、大人になってからだと思ってたのにぃ。お母さんたちの馬鹿馬鹿!」

そんな時、私の携帯電話がほんのりピンク色に点滅した。私はハッとして、受信したメールを開いた。

――鬼道からだ!

メールにはサッカー部の次の試合についてがギッシリ書いてあった。それでショックを受けたりはしない。鬼道は私の誕生日を知らないのだから、当然の反応なのだ。

私は無我夢中で彼に電話を掛けた。
この孤独から逃れたかった。

「……もしもし?」
「苗字か。どうしたんだ、急に。分からない点でもあったか?」
「ううん、そんなのじゃない。ただ、声が聞きたかったの」

数秒の間があいて、鬼道は私の返事の意味を確認した。

「それは俺ではないといけなかったのか?」
「……鬼道はそうだと嬉しい?」
「質問返しか。では、あまり追求しないでおく」

私は頬を掻きながら、笑った。
そして、切り分けたケーキにフォークを刺した。

「鬼道は今何してるの?」
「まぁ、お前と話してるが。さっきまでは食事をしていた」
「ふぅん……一人で?」
「そうだ。親は仕事で忙しいからな、慣れている」

――今日みたいな私は彼にとって普通なのか。

「苗字、お前は何をしているんだ」
「私は……何してるんだろう」

一口サイズにしたケーキを口に運ぶ気が起きず、皿の中でケーキは細かく小さくなっていく。生クリームの甘い匂いが私の鼻を包むだけで、それは私の口には入ってこない。

「どうした。何か嫌な事があったのか?」
「嫌な事……というか、何というか。鬼道にとって当たり前の事が、私には当たり前じゃなくて。それが今日起こって、寂しいだけ」

そしてまた、数秒の間があいた。

「鬼道……?」
「付き合ってやる」
「えっ?」
「貸しを作るという事だ。今から家に行っていいか?」

私は、笑った。鬼道は疑問に思ったかもしれない。でも私は可笑しくて、嬉しくて、仕方がなかったのだ。

赤マントのサンタがやって来ると思って。


―┃listnext


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -