キミの言葉はまるで雪 1/2



苗字を"幼馴染み"という眼鏡を通して見る事は、言葉では簡単だが気持ちや行動は"それ"以上を求めはじめていた。今までそんな事を考えたことが無くて、部活終わりまで俺を待っていてくれた彼女との会話が気恥ずかしくなった。

「今度の試合絶対応援に行くね!」
「あ……あぁ」

『嬉しいよ。絶対、点は入れさせないさ』
『苗字の応援は力を与えてくれるからな』などと堂々と言っていた今までの自分が羨ましくなる。授業の合間に辺見に茶化されなければ、"幼馴染み"の眼鏡を掛けたままでいられたのに。時折、その眼鏡を無意識に外してしまうようになってしまった。

――明日はクリスマス・イヴだし、告白とかしねぇの?
……辺見は必ずこの拳で殴る!

「そうそう。今日の練習、教室から見てたんだけど」
「そ、そうだったのか?」

いや、本当は知っていたさ。
だからミスを連発したんだ。

「何だが調子が悪かったみたいだけど、大丈夫?」
「少し疲れているのかな。はははっ」

俺は今、ちゃんと笑えているだろうか。

「無理しちゃ駄目だからね! 最近は気温差が激しいし、家の中でもちゃんと上着くらいは着るんだよ? 源田って小さい頃から薄着だから、本当に心配――」

あぁ、苗字の説教が始まってしまった。これを止める時、俺はいつも彼女の口元を手で押さえるのだが、流石に今日は出来ない。どうしよう……どうしようと頭が煙を出して働くものの、空回りしてアイディアなど欠片も浮かばなかった。

「――やっぱり源田、変だよ。熱があるんでしょ!」
「そんな事はないさ。そもそも『やっぱり』って」
「だって。いつもなら私の口塞ぐのに今日は何もしないし、一人で苦しそうな顔してるし。病気だよ」

苗字はぶつぶつとまた小言を言いながら、鞄の中をあさって何かを取り出した。それは錠剤だった。顔も赤いからきっと熱だよ、とポケットに突っ込んでいた俺の手を引っ張り出して、掌に置いた。

「これ飲まなかったら、あれあげないからね」
「あ、あれって?」
「えー、今度の試合のお守り作ってる話、忘れたの?!」
「そ、その事か! でもそれは困る……俺の力の源なのに」

うっかり恥ずかしい言葉を使ってしまった。けれど、苗字はそれを喜んで「ありがとう」と言った。
立ち並ぶ家々の隙間から差す夕日の所為か、彼女の頬が丁度赤らんでいるように見えて、可愛さがさらに増した。

そして苗字は歩く俺の先に立ち止って、小指を突きつけた。

「薬を飲む事! 家で薄着しない事! 体調管理はしっかりする事! 調子が悪い時は無理をしない事! あと……」

まだ言い足りないのかと内で溜め息をしたが、俺をそこまで考えてくれているのだと思えば、それは嬉しい事だ。

俺は、心の中で"幼馴染み"の眼鏡を外した。
握り締めて、そのレンズがピキリッと乾いた音を出す。

俺は苗字の小指に自分のを絡ませた。

とても冷たい雪。
それと同じで彼女の言葉は結構突き刺さる。

でも見た目は綺麗で一つ一つは柔らかい。
彼女は俺を思って注意してくれているから。

「あとねぇ……そうだなぁ」
「じゃあ、俺から――」

「明日は俺に付き合って」


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