湿った空気は好き。
周りに草花が咲いていたらもっと好き。

けれど今日は嫌い。
大好きな五月雨は植物ではなくて私の居る大きな建物をじんわり、じんわりと濡らすから。

ゴゴゴゴゴォォォ。

ガラス張りの窓を見ると遠くで白い翼を持った物体が旅立っていった。私もそれに乗ってここから旅立つ、その時間が刻一刻と迫ってきている。

外の天気の所為で少し暗くなった室内の椅子に一人で座り、来る筈のない彼を待ってみた。

――知らせてないんだから。

望んでも意味のない希望。

――来て欲しいなら言えば良かったじゃん……意気地無し。

自分自身を貶して、後悔をして、ふと時計を見るともう時間。そろそろ移動を始めたほうが良さそうなのだが……。

自分の身に着けている腕時計を見て、まだ二分残っている、と自分で長針を遅らせた。

長針を遅らせたのに、私の周りは二分早まったように早送りで流れて、ある人が立っていた。

「分かりやすい所に座っていたのは僕のためだと良いな」
「入り口から雨が見えるからここに座ってただけだよ」
「そっか。苗字は雨が好きだからね」

ニコニコと笑っていても、肩で呼吸をしていた。髪も顔も服も、全身、私の好きな雨で濡れて、彼は私の目に綺麗に映った。
まるで雫で艶やかになった草花のようだ。

「そろそろ行くんでしょ? 腕時計、二分経ったみたいだし」
「そうだね、ここでお別れ」

隣に置いていた荷物を持って、私は手荷物検査場を潜った。

「吹雪君、今のあなたが一番好きだよ」


五月雨の降る頃に
(私達はまた同じように出会うはず)

2012/01/03


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