「豪炎寺さん……」

サッカーの練習が終わった後、苗字が声を掛けてきた。「あぁ、またか」と思ってしまう事は彼女に対し失礼だと分かっているものの、毎日毎日来てもらっても正確な判断が出来ない。

「へ、返事は……まだですか?」
「もう少し待ってくれないか」

何度も何度も繰り返したフレーズを苗字はどう受け止めているのだろう。傷付いているかもしれない、そう思うと罪悪感に陥ってしまう。けれど付き合うか、否か、簡単に済ますものでもないはず、と答えを探していた。

「そ、そうですか」と顔を下に沈ませる苗字に何て言葉を掛ければ良いのかいつも迷ってしまい、最終的に「また明日」と明日来るように自分から誘っていた。

自分のせいで『正確な判断』が出来ないと分かっているのだが、何も言わず帰るのもどうかと……そして今日も、同じ事を言うのだ。

「また……明日来てく」れないか、と取り合えず逃げようと思った。

しかし彼女も限界が来ていたようだ。

「今ここで、決めてください」
「いや、そんな……」

真剣な顔で詰め寄られてもどうしようもできない。何故恋愛はサッカーのようにストレートに進まないのだ。

「最近、あまりボールを蹴りませんよね」
「……そ、そんな事はない」
「誤魔化さないで下さい。こうやって話すために私はずっと練習する姿を見ながら待ってたんです」
「じゃあ、どういう関係があるというんだ」
「……私が理由じゃないんですか?」

図星だった。

どうやって返事を返そうか。どうやったら苗字は心を痛めないで済むのか、そればかりを考えて、他のことに集中できなくなっていた。

「その顔を見ると、やっぱりそうなんですね」
「…………」否定したいが、どうにも口が開かない。
「私、豪炎寺さんにはサッカーを楽しくやって欲しいんです。豪炎寺さん、優しいからどう返すか悩んでいたんですよね? 私は大丈夫です。豪炎寺さんが辛い、哀しそうな顔をする方が私は苦しいです」

苗字に圧倒されて、数秒後我にかえり周りに聞こえるくらい大きく唾を飲んだ。

「……そうか、じゃあ答えるよ」
「ありがとうございます」

彼女の寂しげな笑顔を俺はどう変えればいいのか、心に聞いてみよう。

「俺は……――」


かなしそうなあなたなんて見たくないの
(私にとってあなたが光なのだから)

2011/12/29


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