ここは鬼道の部屋。

ソファに座って雑誌を読む鬼道。
私は退屈で窓の外を眺めていた。

「ねぇ、私達付き合ってるよね?」
「あぁ、そうだが」
「私、何も得られてない気がする」
「……どういう意味だ」

ペラペラとページを捲る音が私を苛立たせる。
窓からソファへの距離は大股三歩ほどだろうか。一歩、二歩……思いっきり踏み込んでお腹からソファにダイビングした。

「あまり騒がないでくれ」

ひたすらページが流れていく。
これでも目を向けてくれないのか、と鬼道の隣に正座で座って雑誌を取り上げた。

「おい、何をするんだ」
「私達付き合ってるよね?」
「さっきも答えたじゃないか」
「私、何も得られてないよ」
「だからどういう意味だ、それは」

雑誌を取り返そうとする手を軽く弾いて背後に隠す。

「鬼道と写真撮ったことない」
「……はぁ?」
「デートもしたことない。
 お揃いの物とか買ったことない。
 誕生日も教えてくれない。
 付き合っても何も変わらない」
「…………」
「鬼道の素顔だって、見た事ない」

全部言おうとすれば、きっと涙が零れてしまう。それは避けたかったので、それ以上言葉にしなかった。鬼道の顔を覗くと『そんな事を思っていたのか』という文字が頬に書いてあった。

「……結構与えたと思うが」
「え〜分かんな」い、と言おうとした瞬間、前から重みを感じて後ろに倒れた。その重みは鬼道、あなただ。

「確かに、苗字が言った事をしたことはないな」
覆いかぶさって、私を見下ろす姿……何をされるか予知できず、ただただ妄想が膨らむ。

「じゃあ、素顔を見せようか」
赤面するのは当然の事だった。

彼のゴーグルが私の目に近付き、黒いレンズから彼の瞳が見えた。目に意識がいき過ぎて、疎かになった私の唇を彼は瞬時に奪う。

ふわっと離れての一言。

「愛は物じゃない」


――……参りました……。


得たものを並べてみようとしたけれど
(それは目には見えないものだから)

2011/12/28


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