苗字の表情は手に取るように分かった。付き合っているからな、そう言いたい所だが現実は違うから口から出ることはない。
憶測になるが、苗字は告白された。
きっと返事に迷っている。
練習時の顔はどこか遠くの一点を見つめて、マネージャーとしては全く機能していなかった。それだけで告白と決め付けるのは良くないが、彼女の後ろ姿を堂々と見つめる男子がいれば、察しも付くだろう。
苗字の顔が日に日に重く、辛そうな顔になるのは想いを寄せている自分にとっても苦しい。今日はそれを晴らす為に放課後、彼女と話すことにした。
「最近、顔色が悪いがどうかしたのか」
「え、私はいつも通りよ」
「誤魔化しても無駄だぞ。俺に言える事なら頼って欲しい」
「……」
引きつった笑顔は次第に消えて、下瞼には必死に堪えられた涙が溜まっていった。
「……だ、大丈夫か」
それぐらいしか言葉に出来なかった。
「有人はやっぱり優しいね」
「いや、俺はお前のために何もできてはいない」
「これは私がいけないの。優柔不断だし、簡単な事なのに難しく考えて自分で抱え込んじゃう」
お前は人を傷つけたくないと思う奴だからな、と俺は付け足した。
「じゃあ、頼らないんだな」
「うん。明日には元気になってるよ」
また、寂しい顔をする。
「…………」
「もう、私は本当に大丈夫だよ」
その堪えた涙はいつ流すんだ。
「……もう暗くなる。今日は一緒に帰らないか?」
「有人から誘うなんて珍しいね」
「滅多にしないさ、雷雷軒はどうだ」
「奢ってくれる?」
「ふっ、今日は特別だ」
喜ぶ彼女の顔に、
静かに輝く涙が頬を伝った。
愁いをおびた仕草が(お前を喜ばそうと焦りが生まれる)
2011/12/28
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