はじまりは綱渡り 1/4



目が覚めたら、そこはもう地獄なのだと然程(さほど)理解に苦しみませんでした。

下に敷き詰められた古びたブランケット。それは私が大好きな花の香りのする布でした。けれど今は雨に濡れて、異臭しか漂ってきません。

四角にくり貫かれた雨雲。いや、本当はそう見えているだけで、私の四方を囲む壁が作っているのです。

ある人が傘を置いていってくれました。一生懸命に、媚(こび)を売りました。聞こえは悪いですが、それが生きる為なのです。

「――ごめんね。ペットは飼えないの」

その人は着ていたジャケットを頭の上に被って走っていきました。私を視界から隠すために頭を覆った、そう見えてなりませんでしたが。

雨を凌ぐ物を貰えて、私はまだ地獄の入口に立っているだけで、足は闇に浸かっていないのだと感じました。けれどそんな気持ちも束の間で、この世には色々な人間がいるのです。

例えば、落ちていた傘を拾って自分の物にしたり。

私のいる空間は雨が溜まって足が数センチ浸かりはじめました。

もう、限界でした。

もし死ぬのが決定したのなら、せめてこの牢獄から飛び出して息絶えたい。

力の限り、壁に向かって身体をぶつけました。意識が次第に朦朧(もうろう)となり、目に映る何もかもが――そう、前のご主人様が夜中眠りについて、つけっぱなしになったテレビの砂嵐によく似ています。

テレビから流れるザーッという音は、ここでは雨で作られていて……あの後私は眠くなって目を瞑ったんです。そして、今からも――。


「……んなぁぁ……」


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