理由の追求 7/41
人を好きになる理由はどんなものだろう。
外見? それとも性格?
苗字はオレのどこが好きなんだろう。
「――何、ぼーっとしてんだよ!」
大きな怒鳴り声が耳に届いて、ふと気付けば顔面にボールが直撃する。パスと言っても倉間の蹴ったボールに容赦は無い。そのまま倒されて、尻餅を付いてしまった。
朝露で湿ったグラウンドの所為でユニフォームに水滴が染み込む。けれどそんな事はどうでも良くて、早朝練習は集中力の無いまま終わろうとしていた。
「ありゃりゃ……」
「どうしたんだよ、浜野らしくねぇ」
ボールを蹴った張本人が近くに走ってくる。いつも通りに頭を掻きながら謝ると、意外にも柔らかい口調で「休んだ方が良いんじゃないか」とオレを気遣ってくれた。
その言葉に神童も同意し、そのままベンチに下がった。隣には四人のマネージャーがグラウンドの選手達を応援、観察等をしてサポートしている。ベンチから少し離れた前方で監督とコーチが何やら話し込んでいた。
「……何話してんだろうなぁ」
今日のオレのプレイの事だろうか。
出来るだけ思考をサッカーに移そうと試みてみた。けれど、隣に座る"彼女"の苗字がオレをちらちらと見ながら気にしていれば、サッカーなんて二の次にしてしまう。
「どうしたの……動きが鈍いね」
「ちょっとさぁ、悩み事があってぇ」
「私に話せること?」
「ちゅーか、苗字じゃないと解決できない事かな」
その言葉を聞くや否や、今までクリップボードの紙を見ていた眼が、こちらに向き直りキラキラと宝石を捉えたように輝きだした。
俗に言う、"頼られる"という事が余程嬉しかったのだろう。彼女の背後で空想の尻尾が左右に揺れているのがはっきりと見えた。
「苗字はオレのどこが好きなの?」
「えっ」
苗字は戸惑い、考え始めた。もしかしたら好きな理由など無いのかもしれない。そうだとしたら、付き合う意味も無いのではないだろうか。
「……じゃあ、浜野君は私のどこが好きなの?」
オレの質問を無視し、逆に返された質問にオレも考え込んでしまった。可愛いから……?
いや、それだけじゃなくて……。
「私ね、何で浜野君が好きなのかは分からない。言葉に出来ないものがいっぱい集まって、好きって言葉になった感じ。それが答えじゃ駄目なのかな?」
「……んー、良いんじゃね? オレも苗字と同じ答えだし」
これで解決、だよな♪
―――――――
「あと、サッカーをしてる浜野君はもっと好き」
「へへへっ。そっか♪ そんじゃあ、戻るか」
2011/11/07
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