白のカーテン赤のシミ 4/41



「ねぇ、鬼道君の目、見たことある?」

ゴーグルを外そうとする所さえ見たことないと、苗字は首を横に振った。何故、中学三年の受験真っ只中で、そんな他愛も無い事で騒ぐのか、彼女には理解できなかった。

「名前ちゃんは気にならないの? 付き合ってるのに」
「付き合ってないよ、ただ家が近所なだけ! それに興味ない」
「嘘付かなくても、皆知ってるよ。ねぇ、少しは興味持って! こんなに盛り上がってるのに……あ、ちょっとぉ!」

まるで小うるさいハエを払うように左手で彼女等にさようならの挨拶をすると、そそくさと教室を出て、サッカーグラウンドへ向かう。
家が近所なのは事実で、よくサッカーの練習後一緒に帰っていた。けれど、決して付き合ってはいなかった。どちらかが告白もしなければ、苗字は鬼道を意識さえもしない。二人の間には「イイ友達」という言葉しか存在しなかった。

「あ、鬼道! 最近早いね」
「流石に三年は受験があるからな。勉強するよう早く帰されるんだ」
「鬼道は勉強しなくても良いのにね」
「そんな事はないぞ?」

鬼道は苦笑するもどこか余裕が現れている。フィールドで天才なら机の上でも天才か、と落ち着いた姿勢で試験に挑む彼を想像した。

「……天才ねぇ……」
「? どうかしたのか?」

顔の前で手を横に振り、話題を変えようと帰り道の辺りを見回す。ふと、鬼道のゴーグルが目に入り、放課後の質問を思い出してしまった。家が近付くにつれて、興味を持ち出した苗字は、自分が知りたがっていると気付かれないよう、話を始めた。

「今日の放課後ね、友達に呼び止められて質問されたんだ」
「ほう、どんな質問だったんだ?」
「それがさぁ、『鬼道の目はどんなのか知ってる?』だって」
「何だ、そんな事か」

口を開けて笑う鬼道をはじめて見て、苗字は、彼について自分はまだ無知なのだと痛感した。そして、彼の可愛らしい一面だとも思った。

「そ、そこまで笑わなくても」と未だ笑い続ける鬼道を睨む。
「わ、悪かった。何せ、お前の顔が知りたがっているように見えてな」

すぐさま否定するも、鬼道は「分かっている」と言っただけで、実際は信じていないだろう。そこまで爆笑され、苗字はムキになった。

「もう怒った。ゴーグル貸しなさい」
「馬鹿、おいっ。止めろ!」
「人を馬鹿にしておいて、自分だけ得するんじゃないわよ!」

苗字を振り払い、鬼道は距離を取った。

「そこまで知りたいのか?」
「当たり前よ! それにそんなに笑われたら腹が立つ!」
「分かった、分かった」

苗字の手をするりと避けて、呼吸を整える。そこまで知りたいなら教えてやるよ、と鬼道は口元を上げた。



―――――――

「白のカーテン赤のシミって感じだ」
「え、見せてくれないの?」
「"知りたい"と言っていたからな。見なくても言葉で分かれば良いんじゃないか?」
「……屁理屈! 意味分かんない!」

御題:Mercy Killing
2011/11/10


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