好きなお味は 41/41



ed様に捧げる相互リンク記念リクエスト

・激甘な話
・心情面を重視
・二月の上旬

―――――――

「私、好きな人がいるの。ごめんなさい」
「……そうなんだ、なら仕方ないよね」

俺の好きな奴は正直モテる。

「苗字さんの好きな人って、誰?」

放課後、名前の告白される場面に出くわしてしまった俺は悪い事だと分かっていてもその場から去ることができなかった。

「……私の好きな人は」

その言葉の続きが気になって仕方がないんだ。今にも呼吸が止まりそうで、あと数秒で爆発する爆弾を抱えた兵士にでもなった気分さ。

「……土門君」

あぁ、本当に爆弾を持っていたら、俺はこれを聞いた直後に死にたい。

「土門か。苗字さんは彼と仲良いしね」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。苗字さんの気持ちが分かってすっきりした」

耐え切れなくなって、俺はそこから逃げた。教室に戻るまでの間、俺の顔はきっとにやけていたに違いない。自分の席に座った今でも顔がほころんでいる。

必死に手で口元を隠しても、顔が熱くなって心臓が次第に大きく、耳元で聞こえるようになった。

「……浮かれすぎだな、俺」

溜め息混じりに呟いて、椅子にもたれ掛かると「……まだ帰ってなかったの?」と平然とした天使の声が聞こえた。

いつものように俺の机に軽く乗っかって、覗いてくる姿を今の俺は直視できない。

「な、なぁ。それ止めねぇ?」
「……机に座るの?」

顔を窓の方に向けて、こくりと頷いた。「うん、分かった」と彼女は素直に聞いてくれて、俺の前の席に座った。


――何で俺、背が高いんだろう。
……ふと思った。

背が高い分、座高も高くなる。そしたら名前は俺の顔を下から伺うように見てくる。気にした事なかったのに……意識しすぎて、頭のネジが一本飛んだ。

「ねぇ、土門君。私の話聞いてる?」
「んぁ、わりぃ。聞いてなかった」

眉間に皺を寄せる名前も可愛く見える。俺に臍を曲げて膨れたほっぺを摘みたくなった。

「……練習ないなら、久しぶりに一緒に帰ろうって言っ」

――あ、柔らかい。

「にゃ、にゃにふんのっ!」
「いやぁ、触りたかった」

さっきの声は天使、容姿は子猫だな。

「もう。土門君、何か変!」
「わ、悪かった。謝るから……」

流石に癇に障ってしまったらしく、もう知らないと彼女はさっさとカバンを肩に掛け、教室から出ようとした。

どうすればいいんだろうか。止めるべきか、止めないべきか。心の中では迷っていたけど、俺の頭にはネジが一本ないんだ。考える頭脳はさっき壊れてしまった。

「待ってくれっ!」

手が勝手に彼女を止めて、腕を引っ張った。

「放してよっ!」
「放すかっ……って、ぉわ!」

バランスを崩して、後ろに倒れた。もちろん名前を掴んだまま倒れて、教卓に背中をぶつけた。名前は俺の胸元にうずくまって、黙ったまま。

一体どうすればいいんだ、この状況。

とりあえず、彼女の肩を軽く揺さ振ってみるが反応はない。渋々声を掛けてみたが、ピクリとも動かなかった。

「……参ったなぁ」

そう呟くと、名前は俺の服を握り締め、震えた声で返してきた。

「参ったのはこっちよ。人の気持ちも知らないで」


今日しか伝えるチャンスはないと思った。

「知らないのはお前の方だよ」

俺はそのまま彼女を強く抱きしめた。止めてよと、放してよと、言われても彼女が黙ってくれるまでずっと放さなかった。

「落ち着いたか……俺の鼓動、聞こえる?」

こんなに近いのに正気でいられる俺を褒めてほしい。心臓は早く、そして正確なリズムで時を刻んでいく。

「……こ、こんなに胸がバクバクするの。始めてなんだ」

名前、俺は――。

「実は放課後、お前が告白される所を見たんだ」

その途端名前は顔を上げ、涙を浮かべた。俺には知られたくなかったと言わんばかりの顔。その顔が俺をさらに興奮させる……俺のものにしたい。

「お前の気持ちも……聞いた」
「いや、いや……」

彼女は次第に心を制御しきれなくなっていった。俺の服に大きな雫が一つ、二つと落ちてくる。

「そ、そんな……やっ!ぅそ」

どんどん荒れていく名前の頬に自分の手を添えた。そうしたら、不思議と雫が止んだんだ。

「……俺もお前の事が、好きだから」

かすれた声で言われた俺の名前。
頬にあった手に震えた手が重なる。

「……嬉しい」

こういうチャンスは逃さない。
まだまだ寒い二月の初め、俺たちは雪も溶けるほど熱く、甘い口付けをした。



―――――――

「そういえば、もうすぐバレンタインだな」
「チョコレート欲しいの?」
「……今日みたいな甘いのなら何でもいいかな」
「ば、馬鹿土門っ!」

お前の甘いもの楽しみにしてるから。

2011/02/03


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