Jealousy 40/41



ed様に捧げるキリ番リクエスト

・甘いお話
・帝国学園文化祭
・彼氏彼女関係

―――――――

帝国学園文化祭、二日目、最終日。

私のクラスはお化け屋敷をやっている。教室を真っ暗にして、黒いカーテンで道を作った、他のクラスと同じ感じの奴。途中でロッカーが佇んでいて、そこが私の住み家になっている。もちろんその場所から離れて、いたずらをしたりもする。

何せ、教室でお化けは私一人、仕掛け担当は私含め、三人だけ。互いに仕事を分担してカーテンの間にあるスペースで努力をしている、最低ランクのお化け屋敷なのだ。

そんな最低お化け屋敷に足を運ぶのはニ、三人ほどの女子か男子のグループか、カップルだ。ちなみに、カップルを脅かすのは私の一番の楽しみ。「全然怖くねぇよ」と彼女にアピールする男子の顔を真っ青にさせるのが私の『使命』とも言える。

文化祭が始まって三十分程経った頃、私の『獲物』が教室に入ってきた。

ロッカーから抜け出し、カーテンに開けた穴から覗いて人数を確認する。今回の『獲物』は好物のカップルで、女子の方がしっかりと男子の腕を掴んでゆっくりと歩いていた。

「……やったぁ、初っ端から楽しめるじゃないか」

そう思って、ターゲットの男子の顔を見た。
見覚えのある顔で驚き、穴から目を離す。

私は瞬きを数回して、もう一度覗いてみた。隣の女子に腕を預けて進んでいくモヒカン頭の不良じみた顔つき。間違えるわけが無かった。不動明王――私の彼氏が、目の前にいたのだ。

「意味分かんない。何でアイツがいるのよ!しかも」

知らない女子と、と言いたかったがそれを口にしたら、きっと私はカーテンから飛び出して不動に飛びつくと思う。それよりこんな場所なのだから、いたずらでこの苛立ちをぶつけてやろうと考えた。

そんな事を考えているうちに不動たちはロッカーの道を見つけていた。

「……ロッカー空っぽだったね」
「……」
「後はゴールを目指すだけだねっ」
「……」
「……」

彼らが通ろうとしていたのは「地獄の間の手」。

仕掛け担当の二人と私を合わせた、計六本の手が足元を襲うというもの。二人には女子の足を掴んでもらい、私は不動を狙う事にした。

「この道狭くない?」
「……一人ずつ通ればいいだろ」
「そ、そんなぁ……」
「さっさといけよ」

教室内ではお化け屋敷でよく耳にする「ひゅ〜どろどろ」というような音楽を流しているので、不動たちの話の内容は聞き取れず、それが私にとってとても苦しく、もどかしいものだった。

最初に通ったのは女子のようだった。足首をつかまれた途端に、「きゃー」と悲鳴をあげて、足をばたばたさせる音がBGMよりも大きく聴こえた。

次に来た足を今度は私が捕まえた。不動らしく、騒ぎもせずに私の手を無理矢理振り払おうとする。ムキになって、私は不動の上履きを片方取ってやった。

「……チッ、ここまでするか?」

* * * * *

「地獄の間の手」を抜けると「血の涙」が不動たちを待っていた。「血の涙」といっても実際に血を使う訳もなく、赤く染めた水をカーテンに掛けた沢山のお面の目から流すだけだが、以外にもこれが怖がられるのだ。

でも今回はお面の目からではなく、カーテンの上から落としてやろうと私は考えた。だって腹が立って仕方がないのだ。

――これくらいされても良いんじゃない?

一滴一滴は面倒なのでバケツに補充しておいた赤い水を上から掛けることにした。もちろん床が水浸しにならない程度の量にはしたつもり。

梯子を上って、カーテンの上の隙間から二人を覗くと、入った時と同じように腕を組んでいた。眉間に皺が寄るのが自分でも分かる。さらには隣の女子は不動の肩に頭まで倒してきた。

不動だって少しは抵抗してよ。
私だってやった事無いんだ。不動が嫌がるから。

我慢できず、不動が私の真下に来る前に顔にぶっ掛けてやった。その女子は慌てて不動から離れて走り出す。

「いやぁぁああぁぁあ!何ここっ!?」

ついでにバケツも投げた……不動の顔面に当たるように。

「血の涙」を通り抜けてまっすぐ行けば出口で、女子は一目散に外へ帰っていった。不動の「何が起きたんだ」という間抜け顔、女子に見放されて置いていかれる姿。全てが可笑しくて堪らない。

私は梯子を降りて、腹を抱えてその場に座り込んだ。

「きゃははは!写真に撮りたかった〜」

小声で言ったつもりだったが、ある人はその言葉をしっかりと聞いていたようだ。背後のカーテンが開き、お化けよりも恐ろしい殺気を感じた。

「てめぇのした事だって分かってんだよ」

顔に掛けた水はまさに「血の涙」……いや、頭から大量出血した人を作り出していた。

「……ふ、ふどう……」
「この馬鹿女がっ!」
「……や、やりすぎ、た?」
「そんなもんじゃねぇよ!」

不動は私の肩に手を置いて力を入れてきた。重力で潰されるように私は徐々に姿勢が低くなり、ついには押し倒されてしまった。

怒っているのだろうか……。

「ご、ごめ、んなさいっ……」
「謝るくらいならするなっ」
「だ、だって……」
ごくりっと唾を飲む。
「……」
「ふん、苗字ちゃんは嫉妬深いのかな?」
意地悪な言い方だった。
「……だってぇ」
そうだ、私は嫉妬していた。
でもそんな事は口に出せない。

「……今度は俺の番」

髪から滴り落ちる水が頬を濡らし、近付いてきた熱い吐息を感じるのは唇で、下がって首筋をくすぐるのは彼の舌。
ふわりと顔が離れて私の彼氏は言った。

「午後は……空けとけよ」

初めて聞いた彼の甘い声、
嫉妬って良いものかもね、

ふと思った。



―――――――

「……で、午後は?」
「もちろん空けた♪」
「じゃあ、お化け屋敷でも行くか」
「え〜、何で?」

「暗闇は俺の好物だからな」

2011/02/29


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