おいしい? 39/41



零様へ捧げるキリ番リクエスト

・甘いお話
・バレンタインデー後
・友達関係(?)

―――――――

二月のイベントといえばバレンタインデー。でも大分前に過ぎて、もうチョコレートなんて誰もあげない。

今年は友チョコで終わったんだけど、私の家にはまだ一つ、ハート型のチョコが残っていた。同じクラスの亜風炉照美こと、アフロディに渡すはずの本命チョコが冷蔵庫の奥で出番を待っているのだ。

彼は同学年、いや全学年のアイドルというべき人物で、同じクラスであっても近づきがたい位地に立っている。それでもバレンタイン当日は後輩でも先輩でも朝から放課後までずっとチョコをあげていた。

お返しを期待する女子もいただろうが、ほとんどは"愛"を込めた手作りだっただろう。

もしかしたら、もう誰かと付き合ってるかもしれない。そうだったら、私のチョコは迷惑極まりない物ではないか!

――今日家に帰ったら食べよう。

そう心に決めた時、私の机の前に赤いラッピングの箱が優しく置かれた。噂をすれば影とはこの事をいうのだ。

「おはよう、アフロディ」
「おはよう、名前」
「……またチョコ?」
「食べ切れなくて……」

さらさらで艶のある髪をいじる姿を鼓動を打ち鳴らしながら見て、溜め息をついた。

「男子にあげれば良いのに」
「それが……涙を流して『いらねぇ!』って言われるから」

まぁ普通に考えれば、惨めで欲しくても欲しくないよね。

「だからって」
「『私じゃなくても』って言うんでしょ?仕方ないんだ。他の女子は、ほら」

アフロディが顎で差したのは入り口付近に集まっていた女子。

彼が横目で伺えば歓喜の雄叫びをあげて騒ぎ出す。アフロディの事が好きなら彼が嫌がっていると気付け!

「だから、また付き合ってほしい」

意味の違う『付き合って』に胸をときめかせながら、毎日変わる箱をあけた。

*****

「アフロディ、これ……」と箱の中身に指を差す。
「……普通は沢山入っているんだけど」

アフロディは中にあったハート型のチョコを摘んで首を傾げた。大きな箱の割に中身は一つ。その一つに想いを込めたとでもいうのだろうか。

「一つだし、アフロディが食べなよ」
「え……僕はいいよ。名前が」
「アフロディが食べなきゃいけないの!折角作ってもらったんだから」

そう言い終えた私に向かって眉をあげたアフロディ。「わかった」と渋々チョコを口に入れようとした時、一瞬、動きが止まった。

「実はこれ、僕が作ったんだ」

不敵な笑みを浮かべてチョコを唇で挟むと私の顔に急接近してきた。本当に一瞬の出来事、「えっ?」と聞き返そうとする丁度その時だった。

広がったのはチョコの甘さと頬の染まる感覚。感じたのは柔らかさと強引な優しさ。


離れて実感する彼の存在。


「ホワイトデーの返事待ってる」

きっと他の人には
見えなかったハプニング。


止まっていたのは私達じゃなくて、世界と信じている。



―――――――

何も無かったかのように学校は終わり、家に帰って出番の無かったチョコを自棄食いした。

2011/03/10


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