あぁ、今年の冬は寒いな 3/41



最近の若い奴が入らなさそうな店でマフラーを買った。別にそこが俺の好きな服屋っていう訳では無かったし、どちらかと言えば、好みでない分類に入る店だった。

種類は豊富でチェックやらストライプやら柄も結構置いてあった。俺は無難に無地の黒を選び、多少のお洒落としてフリンジがあるのを買った。

こんな場所で買う奴なんてほとんどいないだろうと、店を出た際、ドアに立て掛けてあった看板を見下ろし、少し勝ち誇ったような顔をしたと思う。

まだ初雪には少し遠い季節、風が通り抜ける首周りが他の生徒とカブる事は無いだろうと高を括った。

* * * * *

次の日、まだ店の匂いが鼻周りに漂っているマフラーは確かに登校する男子とも女子ともカブってはいなかった。安心して教室の戸を開けると、やはり同じマフラーは見当たらない。胸をなでおろし席に着くと、苗字がいつにも増して大きな声で「おはようっ」と入ってきた。

……あぁ、マジかよ。

誰もが想像ついただろう。
――苗字と同じだったんだ。

すぐさま首から外して鞄の中に突っ込んだ。誰にも見えないように、奥の奥の方へと。

「見て見て! 昨日買った、マフラー」
「名前ちゃんにしては落ち着いた色を買ったのね」
「何それぇ? 私だったらもっと奇抜な物を買うと?」

彼女の周りの女子等はきっぱりと首を縦に振った。それに少し動揺するも、彼女は怯まず、「シンプル・イズ・ザ・ベスト」とか「どんな服にでも合わせ易い」などと言葉を並べる。それがなぜか、俺のセンスをフォローされているように聞こえて仕方がなかった。


そして時は過ぎ、マフラーをするかしないかの選択に行き詰った。今日は不運にもサッカーの練習は休みで、どう足掻いても下校時間を変える事はできなかった。それに加えて外には冷えた風が俺を待ち構えている。

正直、同じマフラーだったと気付かれてたところで、「お揃いだ」とか「同じじゃん」などの言葉で流されるだけだろう。相手が女子なだけに、多少は冷やかされるかもしれないが、それも時間が経てば消えていってしまうことだ。

じゃあ、なぜ俺はこんなに嫌がるのだろう。
自分でも分からない。

ただ他人と同じ物を持つことが、気持ちが悪くてならないんだ。そういうもやもやした感覚って、俺だけしか持ってないのかな。


――北風は俺の体温を容赦なく奪っていく。ポケットに突っ込んだ両手は太ももと生地のお陰で温かい。

あぁ、今年の冬。
裸の首に巻く物、どうしようか。



―――――――

あぁ、今年の冬は寒いな

2011/11/22


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