楽しかった。 37/41
山月あられ様へ捧げるキリ番リクエスト
・FFI後
・キャラクターは高校一年生
・友達関係
―――――――
イヤホンから流れる曲のリズムに合わせて一歩一歩足を進ませる。ふと何かを感じて足を止め、後ろを振り返れば昔の映像が映し出された。
昔の映画館はきっとこんな感じだっただろうと思わせる、モノクロ。小刻みに揺れて、所々シミや線が刻まれるその光景はFFIで優勝してトロフィーを掲げたあの時間だった。
『……ふっ、そんなにはしゃいで、まるで皆子供だな』
『何を言っている。不動だって嬉しいんじゃないか?』
『鬼道クンこそ口元が異常に上がってるけど?』
『そうだな……今日は素直に喜んでも良い日だろうな』
あの会話が確か最後ではなかっただろうか。進んでいた方向に身体を戻し、近くにあったベンチに腰掛けた不動は「また声が聞こえた」と独り言を吐いた。
後ろの板に腕を回して空を見上げると、空には鬼道が飛んでいた。
「あぁ、皇帝ペンギン三号ねぇ。あった、あった」自分の視点から見た鬼道の姿は何気笑えたと顔をにやける不動。
その隣に誰かが静かに座った。
「久しぶり、不動君」
「苗字……また後を付けてたのか」
「"また"って言ってもまだ二回目よ?」
「十分だよ、ストーカーが」
呆れた顔の不動に対し、苗字は至って平然と慣れた仕草で話を進めた。
「前はすぐに走って行ったから、話せなかったしね。今日は逃がさないよ」
「あ?聞こえねぇ、じゃあ俺行くわ」と立ってさっき来た道へ戻ろうとする。
耳に付けたイヤホンで聞こえない振りをしているのだろう。そんな手が通用するはずもないのだが。
「逃がさないって言ったじゃん!」
「うわ、こら抱きつくな!」
「馬鹿な芝居はやめて話そうよっ!鬼道君だって心配してるんだよ?」
鬼道という言葉に不動の身体は動かなくなった。
――もう大分会っていないな。苗字と鬼道クンと俺の三人で同じ高校に入学したけど、俺は今不登校で……。
「お前は元気そうだな……鬼道クンはどうだ」
苗字が手を放すと不動はゆっくりとベンチに座り、先ほどと同じ体勢を取った。
「五分だ。五分しか付き合わねぇ」
* * * * *
五分で何を話せば良いのかと思った苗字だが、すぐに気になっていた質問をした。
「学校、どうするの?」
絶対聞いてくると思った質問。不動は自分の足元を見つめながらそれに答えた。
「……辞める」
「なんで?折角三人一緒に」
「あと三分だ」
「…………」
「終わりか?終わったなら俺は行くぜ」
「学校辞めてどうするの?」
「好きな事する」
「……サッカー?」
不動は何かを言おうとして躊躇いを見せた。サッカーが好きなのかどうか、自分でも分からない。足元から目線を正面に向けると、また過去が蘇る。
――そういえば、真帝国学園ってあったな。あの時の試合は面白かった。鬼道クンとエイリア石を使ったが勝負が出来た。嫌な思い出でもあり良い思い出でもありって感じか。
「ねぇ、答えてよぉ」
「……おっと、わりぃな。時間切れだ」
「えぇぇぇえ。不動君が答えないから時間が経ったんじゃん!」
「ルールはルールだろ」
立ち上がる不動に合わせて苗字も飛び上がり、彼の前で足を揃えた。
「最後の答えぐらい聞かせてよ」
「……前よりも面倒な女に育ったな」
「大きなお世話よっ!」
――そうだな、何て言おうか。
「鬼道クンに伝言頼むよ」
…………………。
「えー……サッカー好きの答えは?」
「お前の頭でも、考えたら分かるんじゃね?」
意地悪な言葉を最後に残し、不動は朝霧の中へ消えていった。
―――――――
『I'm waiting for you in the world. サッカー辞めんなよ』
2011/04/03
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