もちろんさ。 36/41



山月あられ様へ捧げるキリ番リクエスト

・「楽しかった。」の続編
・キャラクターは高校一年生
・友達関係

―――――――

ダ、ダ、ダ、ダ、ダ。

教室中に広がる大きな足音。
それは鬼道のクラスに近付いていた。


会話無く続けられる授業で耳にするのは筆圧の濃い教師が無駄にチョークを削る音。「この問題が分かる者ー」とやる気のない声に手を挙げるものなどいなかった。

いたとしてもその人が差される事は滅多にない。解答を間違えない率、百パーセントと先生内で呼ばれている鬼道有人が指名されるのだ。

「……鬼道、お前なら出来るだろう」

皆から痛い視線を浴びる彼は、今日はどこか抜けて頬杖を付いていた。

「おい、鬼道。返事は?」
「…………」

全く反応のない鬼道に対し教卓の陰で貧乏揺すりをする教師。おいっと怒鳴られるとクラス全員が思ったとき、丁度良いチャイムが鳴り響いた。

「……今日はここまでだ。この問題は次までの宿題」
荷物をまとめて、その教師は足早に教室から出て行った。途端に全員が安堵する。そして口々に「面倒な先生」と吐き捨てるように言った。

そんな中、鬼道はまだ夢見心地のようだった。

* * * * *

「間に合ったっ!」

後ろのドアから苗字の声が響いた。

「間に合ったって、もう三時限目よ?」
「えっ、嘘っ!」

ドア付近にいた女子が彼女の肩に手を乗せ、笑いながら言った。はぁ、と大きな溜め息を付いて苗字は鬼道の後ろの席に座り、彼を突く。

「ねぇ、鬼道君。今日、会ったよ」

今までピクリとも動かなかった鬼道が、ようやく起動した。

「本当かっ」
「もちろん!」

上半身を彼女の方に向けて「どんな様子だった」と聞くと、苗字は伝言を預かったと伝えた。

「伝言?俺にか?」
「うん、私の頭でも考えたら分かるって言ってたけど、わかんなかった♪」
「それで、不動は何て言ったんだ?」

確かそれは英語だったと苗字は片言の"日本人英語"で頭の中の単語を読み始めた。

「アイム、ウァイティング、フォ、ヨウ、イン、ザ、ウォールドゥ。サッカー辞めんなよ」
「……すまん、それは英語なのか?」
「え〜、頑張って読んだのにっ!」
「紙に書いたほうが理解が早い気がする」
「スペルが分かんないもん」

流石英語のテスト、一桁の常連だと鬼道は額に手をあてる。それから五分ほど、彼女の"日本人英語"を聴き、紙に写した。

「I'm waiting for you in the world.
 そう言ったんだな?」
「うん、その後に『サッカー辞めんなよ』だって」

紙に書いた英語を見つめながら、鬼道は不適な笑みを浮かべた。どうしたの、と苗字が聞くと彼は昔が懐かしいとその紙をくしゃくしゃに丸めて近くのゴミ箱に投げ捨てた。

――アイツと会ったのは真帝国学園の時だったな。あれが最初で最後の戦いだった。あれ以来俺とアイツが別々のチームで勝負する事は無かったな……。

「不動は世界に行くんだな」
「えっ、そうなの?」
「……少しは勉強しろよ?」

今まで心配していた事が嘘のように無くなった。

「アイツ、学校はどうする気だ?」
「辞めるって言ってた、それで好きな事するって」

身体がいつもより軽く感じた。すっと席を立つと鬼道はそのまま教室を出ようとした。もちろん苗字も慌てて席を後にする。

「どこ行くの?」
「……外だ」
「もうすぐ授業始まっちゃうよ?」
「俺もこのままじゃいけないと思ってな。別に来なくても良いんだぞ?」

「何言ってるんですか♪」



―――――――

鬼道、不動あるところ、苗字ありってね。

2011/04/30


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