セカンドシーズン 35/41



杏様へ捧げるキリ番リクエスト

・甘いお話
・鬼道とは幼馴染み
・夢主は一目惚れ癖あり

―――――――

苗字はいつものようにスキップをし、満面の笑みで流行の新曲を鼻で歌っては「今日も出逢いの日」と訳のわからない事を鼻歌の途中でリズムよく加えていた。そんな彼女の背後から秋が声を掛ける。

「苗字、おはよう」
「おはよう、秋♪どうしたの?こんなに朝早く」
「今日日直なの。苗字こそどうして?」

先ほどまで口ずさんでいた「出逢いの日」だからと誤魔化してみた。秋はニ、三回顔を立てに振ると見透かした目で「また振られたんだ」と言った。

「…………っ」
「図星ねぇ。これで何回目?」
「……十九回目」
「十分すぎるね」

苗字には人をすぐ好きになる癖があった。出会いは廊下で落とした物を拾ってくれた相手に一目惚れだとか、ただすれ違って胸がときめいただとか、本当に様々だった。

そして三日ほど経ってから惚れた相手に必ず告白するのが苗字。

「その癖直した方がいいよ。クラスじゃ苗字の噂が立ってるし」
「分かってる。今日から私は変わるの!」

今まで「出逢いの日」だと浮かれていた奴が何を言う、と文句を言いたくなる。

ルンルンとまた鼻歌を始めて秋の先を歩いて十字路を真っ直ぐ進むと右方向から思わぬ人が飛び出して苗字と衝突した。

相手は慌てて立ち上がり、すまなかったと謝りながら手を伸ばす。
「あ、ありがとう……」
彼の手を借りて立ち上がり、心配して近寄る秋にアイコンタクトと取った。秋は彼女の瞳と染まる頬に頭を抱えた。

今まで恋愛感情など感じず接していた彼に苗字はたった今恋に落ちたのだった。

* * * * *

相手は幼馴染みかつ、同じクラスの鬼道だった。日直で急いでいたらしく、近道をしようといつもは通らない道を走っていたそうだ。

「ねぇ、秋。日直代わって」
「鬼道君に被害が及ぶから駄目」
「え、大丈夫だよ。何もしないから」
「それでも絶対迷惑掛かるでしょ。苗字の目に入った男子は嫌な思いしてるんだから」
「あ、今のは凄い傷ついた」

あらかじめ用意された台本を読んだよな言葉には何も感じず、秋は話を進めた。その続きは苗字にとってとても重要な話で実は鬼道は苗字に告白した事があるらしかった。

「うそ、私、覚えてない!」
「だってその時苗字から言えば……十一回目の人に夢中だったもの。教えてくれたのは自分よ?」

確かに、そこまで詳しい情報は自身にしか分からない。

――それにしても告白されたなんて、これじゃあ私の恋はもう終わってるじゃないか。

「それに、何て言って振ったと思う?」
「……ごめん、もう聞きたくない」
「『私、鬼道君には恋愛k「聞きたくないってばっ!」」

隣の机に置いてあった教科書を投げつけるものの、呆気なく避けられ鈍い音を立ててそれは地面に落ちていった。
そこへ噂の鬼道が通りかかる。

側に落ちた教科書を拾い上げ、溜め息を付いて一言「俺はそんなに嫌われているのか」と。

よくよく見れば、投げた物は鬼道の所有物。やってしまったと苗字の顔には冷汗がダラダラと流れ出した。

「ご、ごめん。わざとじゃなくて、近くにあった物を」
「いや、良いんだ。よく分かったから」

隣の席に本を置いて苗字には見向きもせず、秋に部活の話題を持ち出す。秋も話に乗るものの、流石に気まずく「本当に悪気は無かったの」とフォローするが全く聞いてはくれなかった。

何度も謝るが変わらず秋にばかり話しかける鬼道に苗字は次第に苛立ちと悔しさと感じた事のない胸の痛みが強くなった。

「何でこっちを向いてくれないの!」

ザワザワと賑やかだった教室は一瞬にして静かになり、やっと鬼道も苗字の方を向き直る。

「……だから、私は、誤解だ、って」
「苗字がそうなら、俺ももう求めはしない」
「ち、ちがう……から、」

走ってもいないのに息が苦しくなる。感情が目から零れ落ちる、それは透明で濁っていない気持ちの表れだった。

「……す、き……?」

微かに放った言葉が鬼道に届いたかは分からない。苗字は無我夢中で教室を飛び出し屋上へ向かった。

今の苗字には突き刺さるような冷たさを持った風がそこではお構い無しに吹いていた。

そんな風に背を向けてフェンスに身体を預けると足の力が抜け、ドスンと座り込んでしまった。よくあるタイミングで鬼道が現れる。

「苗字っ!」と肩で息をしながら近付いてきた。

――やだ、来ないで……。
そう言っても、実際に声には出ておらず、口しか動いていない。それでは伝わるはずもなく、鬼道は彼女の目の前まで歩いてきていた。

「もう一度、言ってくれ」鬼道は昂る気持ちを抑え、冷静に彼女の目を見た。何も言ってないと白を切る苗字にさらに接近し、最後に言った事をもう一度とせがんできた。

「……好き」

一言だけ。

それを聞いた途端、鬼道は苗字に抱きついて「ありがとう」と震えた声で言った。理由が分からず、戸惑う彼女に彼は「待っていて良かった」と付け足した。

――……そっか、私……。

そして鬼道の前で違うものを流した。



―――――――

『私、鬼道君には恋愛感情をまだ持てないの』
『"まだ"っていうのは……』
『もし鬼道君がずっと私の事好きでいてくれるなら、私から告白する』

――そんなに待ってくれる人はいない。
      そう思ってたけどね――

2011/05/11


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