はあ、 33/41
風影裏様へ捧げるキリ番リクエスト
・ほんわかなお話
・吹雪は従兄弟
・↑うるさい奴
―――――――
『掃除時間に掃除をサボった者は放課後一人で教室を綺麗にする』
これは雷門中学校、二年六組の掲示板だけに貼ってある罰だ。そして今日、私はその罰を受けなければいけない。
……従兄弟の吹雪士郎の目の前で。
「苗字、サボったの?」
「友達の代理。優等生の私がサボるわけ無いじゃん」
教卓の上に座って教室を眺める吹雪は私の一生懸命掃除をする姿をどういう風に見ているのだろうか。ずっと頬杖を付いて、私を目で追って溜め息を付く姿が無性に腹が立つ。
「さっきから謝ったじゃん」
「………どうしたの急に」
「『どうしたの急に』じゃないわよ!確かに北海道から遊びに来てくれた従兄弟様を忘れて友達の掃除を引き受けた私が悪いけど、そう溜め息を続けられたら腹が立つの」
運んでいた机を床に落として彼を振り返った。吹雪は何食わぬ顔でまた溜め息を、今度は大きく付いた。
「だから、溜め息止めてよ」
「じゃあ早く終わらせて遊ぼうよ♪」
「私は一人なの。教室全体をあっという間に終わらせる力なんて持ってません」
また彼に背を向けて机を運び始めた。すると吹雪もまた溜め息を始めて、のん気に鼻歌まで歌いだした。
口から漏れる重い息が邪魔だが綺麗な音が曲を作ってくれているのはとても落ち着く。リズムに合わせて箒で掃いたり、机を拭いたりすると自然と速度も上がり着々と終わってきていた。が、またもや吹雪が邪魔をする。
「ねぇ、苗字」
「……なに」
「手伝おうか?」
「今更、手伝ってどうするの」
さっきも言った通り、掃除はもう終盤。後は黒板付近を綺麗にすれば終わるのだ。ここまで来たら意地でも自分で終わらせたい気分にはなる。
「あと黒板だけだから大丈夫」
「そう……」
そして吹雪は溜め息を付いて教卓から飛び降りた。箒を片付けて黒板に向かう私を寂しそうな目で見つめて、私が彼を通り過ぎると予想もしなかった事が起きた。
「やっぱり手伝いたいな」と吹雪は私の背後に身体を密着させて、まるで私の影のように同じ動きをし始めた。
「ちょっ、んなっ。離れてよ!」
「僕の気持ち知ってる?」
いきなり何を言い出すのかと思えば……そんなの「早く遊びたい」でしょ。自信満々で言ったのだが、吹雪は否定した。
「普通の女子だったら分かるよ?」
「悪かったわね、普通の女子じゃなくて。もう離れてくれる?」
「じゃあ」と吹雪は私を百八十度回転させて向かい合う形に変えた。急に彼の顔が現れるとトゲのあった今までの自分が隠れてしまい、顔が直視できなくなった。
「分かる?僕の気持ち」
「わ、分からない……」
「僕、苗字が好きなんだよ」
私の額に温かい感触が数秒、その後唇に長い時間。
そして互いに顔が離れて、吹雪はまた溜め息を付いた。
「待ち草臥れちゃった。ここまで来るのに」
―――――――
「溜め息嫌だったでしょ?」
「……耳障りだったよ」
「全然僕に振り向いてくれない苗字が悪いんだよ?」
「…………はぁ!?」
2011/06/08
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