make me 32/41
海様へ捧げるキリ番リクエスト
・甘めのお話
・神田とは同い年
・任務での出来事
―――――――
互いに向かい合った狭い個室で神田は黙々と資料を読んでいた。窓の景色が映画のフィルムのように流れても、映画を見たような感覚は少しも起きない、平和ボケした草原が広がっている。たまに木が突っ立っていて、腰を曲げた人が牛を誘導させていたり。
名前はつまらなかった。
「神田、暇」足場の空間が遠いなと感じ、神田の隣に座った。「資料と友達になっても詰まらないでしょ?」
「…………」
彼は何も言ってはくれなかった。
「ねぇ、ねぇ。私達はどこへ向かってるの?」
「…………」
「コムイさん酷いんだよ?神田にばかり説明して、私には『まだ君はお子様だから』って感じで何も言ってくれないの」
「…………当然だ」
やっと物を喋ったと名前は喜んだが、考えればあまり嬉しくない。
「邪魔だ。向こうに座れ」
窓の外が真っ暗になった。ただ単にトンネルに突入しただけの事だ。だが名前は怖くてたまらない。予期せぬ事態だと思い込んだ。
「え、何々何々?!」
「……トンネルだ」
「キャ――ッ、怖い怖い怖い!」
神田に必死でしがみつくと、列車が縦に大きく揺れた。二人の身体がふわりと跳ね上がり、地面に足が付いた途端、ブレーキが掛かる。本当はまだ頭の上に太陽が照っている時間なのだが、この中は星一つ無い闇。急に止まった所為で二人は席から落ちていた。
「……もうやだよぉ」
ひっくひっくひっく、ひっくひっく。
(泣くな、エクソシストだろ)
ひっくひっくひっく、ひ、ひっくひっ。
(早く俺から離れろ)
神田にしがみ付いたまま泣きじゃくる名前に掛ける言葉が見つからなかった。どれもこれもが鋭く、傷つけてしまう。けれどこのままでは……。
「…………」
大きかった泣き声は次第に弱まり、神田にしがみ付いた両腕もゆっくりと離れていった。名前の頭の上にはほっそりとした荒い手。髪をわしゃわしゃと洗う感覚で左右に動いている。
名前の照れ笑いが小さく聞こえ、神田の肩に何か重いものが乗った。
「……今日だけだ」満更嫌ではなかった様子。
列車が再び動いて、明るくなった頃には二人は何も無かったように隣に座っていたという。神田が景色を、そして名前が資料に目を向けて。
―――――――
「お前は『お子様』だな」
「…………それでもいい♪」
「っ?」
――神田の近くにいられるなら。
2011/06/12
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