1と0の間 31/41
いずみ様へ捧げる相互リンク記念リクエスト
・甘いお話
・風丸は年下
・夢主は高校生
―――――――
俺が中一の時に苗字先輩は陸上部の部長を勤めていた。実績は勿論のことだが、教え方や面倒見は良いし、何より先輩は美人だった。
陸上部に入部したのは強い奴と張り合いたいという気持ちもあったが、先輩目的だろ、と問い詰められたら否定はしない。
どちらかと言えば先輩の方が上回る気がするな。けれどそんな想いも先輩が卒業して、俺は中二に上がってサッカーをしていれば次第に薄れていく。
憧れの女性がぼやけていって、サッカー一本になってきた頃の事だ。夏休み前に行われる前期末テスト。その一週間前がテスト週間で部活動が休みになるのだが、サッカー部には成績が危ない部員が結構いるので(特に円堂)、テスト週間の三日前から部活を休みにしていた。
その三日間の初日、サッカーをせずに玄関を出る途中、まだ休みに入っていない部の掛け声や練習の音が響いていた。俺はふと陸上部の事を思い出し、練習風景を見たくなった。
練習場所へ近付くに連れて、誰かの声が俺の耳に届きはじめた。とても懐かしい、厳しくも優しい声。
「……スタートが遅いよ。ほらそこ、立ち話する前に練習する!」
まさかとは思ったが、次第に記憶が明白になっていく。
「苗字先輩っ!」
「……風丸!部活に遅刻するなんてアンタも怠惰になったね。罰として校内五周してきなさい」
「え、いや。俺……実は」
「言い訳無用。さっさと走る!」
俺は持っていた体操服に着替えて、何も言えないまま走らされた。その後も同じで、先輩は俺を見ようともしてくれない。
あっという間に時間は過ぎて、練習は終わった。
――皆が帰った後、俺は先輩に呼び出された。
「久しぶり、風丸。元気だった?」
「は、はい。先輩も元気そうで何よりです」
「もちろん私は元気よ。高校でも陸上一筋で生きてるわ」と笑って俺の頭に手を乗せた。「風丸はここではもう走ってないんだね」
ハッとなり、先輩の方を見る。とても寂しそうな表情に見えたのは俺の恋心がまた芽生えてきた所為なのだろうか。
「ちらちらアンタの走りを見てたけど、フォームが変わったね。足の筋肉も前より力があるし、サッカーとかしてるの?」
「……な、なんで分かるんですか」
「私をなめるんじゃないわよ?結構観察力はあるんだから」
ニ、三度頭を軽く叩いて手を引っ込める。それが寂しくて、恋しくて、下ろされるその手を握り締めた。
「……俺、サッカーが好きです。多分、陸上よりも」
ちらりと顔を伺うと、さっきの不安そうな顔とは裏腹に彼女は笑っていた。
「なら良いじゃん♪その足、サッカーでいっぱい使ってやるんだよ!」
「……先輩」
「アンタが陸上で走らなくなるのはちょっと寂しいけど自分で決めたならそれを遣り通すしかないんだからね!」
嗚呼、俺は先輩に会ってから一つも前には進んでいなかったんだ。
「絶対、頂点に立ってみせますから!」
―――――――
スタートから走り出せなかった俺。
一歩までとは行かないけれど、少しは進んだと思ってもいいよな?
2011/07/23
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