ウィークネセス 29/41
国枝桜子様に捧げる相互リンク記念リクエスト
・鬼道、夢主は高校三年、同じクラス
・鬼道のゴーグル、マントは退場
・代わりの眼鏡
―――――――
公園の木々に葉はなく、裸になった枝がざわざわと揺れていた。
太陽が雲で隠れている所為か、秋風は肌寒く、着込んだ制服の隙間から苗字の身体を何食わぬ顔で貫通していく。なぜ女子学生はスカートを穿いていなければいけないのだ。ハイソックスでもタイツでも限界がある。
やっとの思いでたどり着いた校門を潜り、他の生徒の誰よりも早く教室へと足を進めた。夏には一番心地よい廊下側の後席は今の季節は地獄だ。暖房が掛かっていてもドアから進入してくる廊下の空気は防ぎきれない。
少しでも温まりたい思いで、一気に駆け上がって、三階の教室に飛び込む。思いきりドアを引き、最後の一センチは丁寧に、隙間を減らす努力をした。
大きく出た溜め息が呼吸を整えると同時に、苗字の内なる力までもを吐き捨ててしまう。すべてが冷えた教室の机にカバンを置くと、その上にがっくりと突っ伏した。
「よし、今日こそはっ」
聞く機会はいくらでもあったのに、どうしても勇気が出ずにある事を聞けないまま、受験生になっていた。クラスは一年生の頃から変わらなかったし、それに今年の席替えで折角、隣になっていたのに。
早く解決したい、今日こそは聞くんだ。
心とは反対に両手は模擬試験の復習を始めていた。
「――ほう、朝早くから熱心だな」
背後に威圧感を覚えた。いや、苗字がそんなものを鬼道から感じる事など今まで一度も無い。きっと冷えた空気が入り込んだ所為だ。
「鬼道こそ、こんな時間にどうしたの」
「今日は日直なんだ。……なあ、苗字。なぜ暖房を付けない。それに電気も、目が悪くなるぞ」
「元々目が悪い鬼道に言われたくない。それにスイッチは黒板の横だし、動くのが面倒だもの」
「お前らしい尤もな理由だな」
鬼道は作り笑いをし、隣の机にカバンを置いて暖房と電気を付けに前へ歩く。赤ペンを模範解答の上に置いて鬼道の後ろ姿を眺めていると、鬼道が、「あと、これは伊達眼鏡だ」と言った。
「え、嘘でしょ」
「嘘だとして、俺は得しない」
曇り空で照らされなかった暗い教室が明るくなり、二人だけの会話に機械がぼうぼうと混じる。
苗字はこの距離ならと、考えた。
「き、鬼道……有人くん!」
「な、何だ、改まって。気色悪い」
「あ、あのさぁ。鬼道くんって」
その次だ。
ここまできたら言うしかない。
覚悟を決めろ、苗字名前。
「弱点とか、無いの?」
馬鹿。
「弱点?どういう意味だ」
「あの、嫌いな食べ物とか。鬼道って見た目、完璧そうだから」
「……考えた事もなかったな。そもそも俺はいつか父さんの仕事を継ぐことになるから、そう弱点があっても困る」
「そ、そうだよね。変な事聞いてゴメン」
苗字はまた赤ペンを右手に持って視線を解答欄に移した。これから三日間は鬼道とは顔を合わすことさえ出来ないだろう。
「……まぁ、無い事もないが」
わざとらしくゆっくりと席の間を通り、鬼道は、自分の机に腰をもたせ掛けて、こちらを見下ろしていた。
―――――――
「交換条件だ。苗字が弱点を教えるなら、俺のを教える。苗字、お前はどういった行動が苦手(好み)なんだ?」
2011/10/04
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