小さき鼓動をみつめて 28/41



葵都様に捧げるキリ番リクエスト

・ある意味で死ネタ
・大半がシリアス
・夢主と骸は知り合い関係

―――――――

赤茶色の夕日が、立ち並ぶマンションの狭間から何かを見つめていた。

私は顔を出す太陽の光が向いている方向に目を向けると、道路の端に小さなピンク色の物体があった。まさかと思いそれに近付くと、まだ目も開いていない雛だった。

私はその場にしゃがみ込んで、毛のほとんど生えていない身体が小さく呼吸しているさまを見続けた。この辺りに木は無い、電柱の上に巣を作る鳥もいるらしいが、近くの電柱には棒切れ一つ無い。

ガァガァ、ガァ。
一羽のカラスが頭上で鳴いた。

「……たすけなきゃ」

その時はただそれだけを思った。
制服のポケットに入っていたハンカチを取り出し、傷付かないよう慎重に小さな命を拾い上げる。優しく胸元まで近づけて、中を揺らさないように小走りで逃げた。

どこまで走ってきたのだろう。ふと足を止めると住宅地から離れた場所に来ていた。

「ここ、は……」

そこは『黒曜ヘルシーランド』
今は使用されていない廃虚だ。こんな場所こそ、カラスが数十個と塒(ねぐら)を作っているに違いなかったが、私は一つだけ、救いの手があると考え、一目散に中へと入った。

「むくろ、むくろー!」

閑散とした建物の中を歩き回っていると、背後から声がする。

「おや、久しいお客さんですね」
「むくろっ!」
「苗字から僕の名前が出るとは、どういったご用件でしょう」
「ねぇ、むくろなら治せるよね。ねぇ……」

ハンカチで隠れた姿を骸はまじまじと見た。私の顔を見て、また、中を見て。その間が嫌なくらい長く、隙間風が入り込み、辺りの埃を何度も何度もかき回す。喉の器官に入り込み、私が咳を数回した頃、骸は私の腕を引っ張って、階段を上っていった。

四階ほど上った地点に骸の住処があった。壁は建物そのものだったが、さっきまでとは違い、空気もきれいで何より椅子やソファやデスクがあった。

「苗字、その雛はもう死にそうです。私にも治せません」
「嘘、嘘っ。まだ呼吸してる」

骸は唇を噛み、それ以上何も言わなかった。
きっと私が泣いていたからかもしれない。

私は着ていたブレザーをソファに置いて、そこに雛をそっと乗せた。その周りを服で包み込むように巣を作って、私はペットショップへと走った。その間、骸が何をしていたのかは知らない。私が帰ってきたとき、彼はソファの近くで雛と一緒に眠っていた。


水で柔らかくした餌を食べさせ、あまり眠らない日が二日続いたその次の朝、うたた寝をしてしまった私の目の前から雛は消えていた。

「……むくろ、雛が」
「きっと野良猫でしょう」
「……そう」

何故か涙はこぼれなかった。

「苗字に育ててもらって、雛も嬉しかったと思います」
「そう、かな……」
「えぇ。二日間、雛にとって一番幸せな時だったでしょう」
「そうだと、いいな」



―――――――

――苗字が去った後に逝ってしまうのですね。彼女に死を見せない、それがあなたなりの恩返しですか。

ではせめて、少しの間だけ。
私も恩返しに協力しましょう。――

2011/10/08


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