一目惚れしたんです 2/41



俺はあの日、ある女性に出会った。

"ある女性"と言っても俺より二つ年上の女子高生。俺より少し身長は低いが、制服を着ていなかったら成人した立派な大人に見えただろう。そんな彼女がある夜、学校帰りでチンピラに絡まれていたんだ。

「あの、止めて下さい!」
「俺たち暇なんだよねぇ。ちょっと付き合わない?」
「そうそう♪ まだまだ友達大勢呼ぶからさ。きっと楽しいよ?」
「……嫌です! その手を放して!」

その時は場所も薄暗くて、彼女と男等の顔なんて全く見えなかった。けれど、どんな相手でもそんな現場を目撃しては黙って見てる訳にはいかない。

「おい、そこで何してんだ」

俺の声で、二人がこちらを振り向いた。チカチカと不規則に点滅する電灯が良い雰囲気を醸し出して、俺の気分も高まる。

「何って……なぁ?」
「俺らこれから彼女と遊びに行くんだよ」
「……それにしちゃあ、強引に見えるが?」

彼女を一人に預け、もう一人が俺の方に近づいた。何だ、俺と同じくらいの体系じゃないか。それでも精一杯胸を張って脅しの面をするものだから、余計可笑しく見える。

「なめた顔してんじゃねぇよ」
「……そんなに自分を強く見せたいのか?」

俺の言葉が癇に障ったのだろう。そいつは瞬時に拳を前に突き出す。力強そうなパンチには見えた、だが腰が全く入っていないカスカスなパンチだ。

俺はそれをするりと右に避けて、空いた腹に足をめり込ませた。今まで自分自身が攻撃を受けるなど考えもしていなかったのだろう、そいつは低い声をあげて地面に伏した。その光景をかすかな光を頼りに見ていたもう一方の男は震え始めた。

最後の締めで鋭い視線を向けると、そいつは彼女を開放し仲間を放って逃げていった。力尽きて膝を付いた彼女に近づきながら、俺は声を掛けた。

「……大丈夫か」
「だ、だいじょうぶ、です」

彼女は肩で息をし、小刻みに震えていた。正直、どういう対処をすればいいのか分からず、さらに古い電灯で露になった彼女の顔があまりにも……綺麗で、俺は瞬時に櫛を取り出した。緊張や気を紛らわすのに、髪型を整えるのが癖なんだ。

「……あっ、あぶない!!」

一瞬の事だった。

油断してしまった俺のミスだった。視界がぐわりと揺れる、背後からの攻撃だった。硬いもので殴られた感覚、そこらに落ちていた何かだろう。

すべての身体の動作が一時停止した。持っていた櫛は地面に落ちて、不安定な俺の脚がその上に乗り、割れる音が微かに聴こえた。目の前の彼女は口を開けて怯えていた、叫び声さえあげれない様子に見えた。

「ふざけんじゃねぇよ!!」
「……ふざけてんのは、てめぇだ!」

後ろ蹴りをそいつの顔面めがけて放った。もちろん、脅しだ。
そいつの髪の毛が靡いて、持っていた何かを投げ捨てて逃げていった。

「所詮は弱い奴だな。全然効いてねぇ」
「あ、あぁ……」
「……大丈夫か?」と改めて聞き直すと、彼女は涙を浮かべて首を立てに振った。

やはり女性と話すのは苦手で、ポケットから櫛を取り出そうとする。そこで折れてしまったことに気付き、自分の足元を見た。俺の櫛は見事に真っ二つに折れていた。

「はぁ……仕方ねぇか」
「あ、あの……」

硬直していた彼女は震える手で鞄の中をあさって、一枚の櫛を出し俺に渡した。よほど俺が渋い顔をしていたので、気を使ってくれたのだろう。

「……いや、いらねぇよ」
「お、お願いです! 今は貰って下さい!」

あまりにも強く繰り返すので、彼女の行為を受け入れた。彼女は微笑んで「また後日、お礼をします」と頭を深々と下げた。まだ力が入っていないようで、ふらつきが目立って仕方がない。

「……送る……」
「……ありがとうございます」



―――――――

俺は櫛よりも大切なものを貰った。

御題:花涙
2012/01/26


prevlistnext


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -