Dreamin' of a girl 26/41



悠希様に捧げる相互リンク記念リクエスト

・帝国逆ハー鬼道落ち
・鬼道は帝国学園に通っています
・夢主はマネージャー

―――――――

新年を向かえ、冬休みが終わるとすぐにサッカーの練習は始まった。
入部当初からの仲間はもちろん、去年の四月から加わった一年生との息も合い、これからさらに仲間を増やし強くなると俺は予測していた。

ただ少し気掛かりなのは、一年マネージャーの苗字が未だ、部員と距離を置いていることだ。
仕事は出来るし、気配り上手。サッカー部の唯一の女子ということもあってか、部員全員から慕われ、気に入られている。いつも笑顔で皆を支えていて良い奴なんだが……一体何があったのだろうか。


「休憩の時間でーす!」
「もう、休憩か。何だか練習時間が短く感じるな」
「本当か? 肩で息をしてるぞ、源田」
「佐久間に言われたくはないな。汗でびっしょりだぞ!」

いつもの如く、最後までフィールドでじゃれあう二人。それを横目に他のメンバーは苗字からドリンクとタオルを受け取っていた。

「いつもすまないな、苗字」
「いえいえ! マネージャーなんですから当然の事です!」

それからいつものように成神が俺の背後から顔を出して、彼女をデートに誘うのが日常化していた。それを止めに入るのは、辺見で今日は苗字の腕を左右に引っ張り合いながらいがみ合う。

「テメェ、いい加減にしろよ!」
「先輩には関係ないでしょ。俺、今日は本気なんっすよ!」
「それなら、ここにいる全員が本気だよっ!」

っと以前に比べて、取り合いが激しくなっていった。

辺見に賛同して皆が苗字を取り囲んだ。
俺はそれをただ眺める傍観者になり、騒ぎに気付いてやって来た佐久間と源田はあの中に入りたそうな顔をした。

「……入って良いんだぞ」
「そんな! 俺は別に」
「顔に書いてある。源田も同じだ」

二人は顔を赤くして、唾を飲み、俯いてしまった。

――こんなに愛されている苗字が俺たちから距離を置いてるように見えるとは……俺の目がおかしいのかもな。

* * * * *

休み明けの授業と練習は鈍った身体に大分応えていた。
あの騒ぎは苗字の一声で一段落ついて、練習を再開したのは良かったが、集中力は彼女の方に向いて練習と呼べるものではなかった。

俺は、静かになった部室で長い欠伸と伸びをした。すると、突然ドアが開いて、荷物を持った苗字が入ってきた。

「鬼道先輩。お疲れ様です」
「あ、あぁお疲れ」

苗字は俺の姿を見て、くすくすと笑い「身体は慣れましたか?」と訊いてきた。

「少しずつだがな。もう少し個人練習をしておけば良かった」
「鬼道先輩はやっぱり一番動きが機敏でしたよ」

机の上にタオルの入ったバスケットを置くと、長い褒め言葉を続けた。それを語り終えると、「部室は私が閉めます」といって俺を帰らせようとした。

「本当に、戸締りは私がするので、帰って下さい!」

苗字は窓の外を気にしていた。これは何かあるに違いないと俺は帰る振りをして部室裏で彼女が出てくるのを待つことにした。

正直、成神か辺見あたりの奴が告白に来るのだろうと考えていたが、意外にも二年生と三年生の女子数名がやってきた。彼女たちは我が物顔で部室に入り込み、大声をあげた。

「生意気なのよ――」
「――自分が可愛いと思ってるん――」
「一年生の――私たちの方が――」

そして部室のロッカーに何かがぶつかる音が響く。
俺はいてもたってもいられなくなり、部室のドアの前に立って勢いよく開けた。

――嫉妬深い女子等はつくづく困る。

「そこまでだ!」

案の定、ロッカー付近に苗字が倒れていた。俺はすぐさま驚くグループの中を割って通り、彼女に近づく。頭を強く打っただけで、怪我はしていないようだった。

「き、鬼道先輩……」

「お前たちはマネージャー募集の時に来ていたな。そんなに苗字が選ばれた事が憎いか?」
「……わ、私の方があんな子よりも優れてるはずよ!」
「そ、そうよ! あたしだって小さい頃からサッカーを――」

がやがやとうるさい"音"が部室に広がる。
少しずつそれが小さくなって、もう何も言えなくなってしまった。

「終わりか?」
「えっ…………と」
「き、鬼道先輩もういいんです……私が辞めればいい事なんです」

――きっと俺もコイツに惚れているんだな。

「苗字が辞める必要なんて無い。お前は俺が守ってやる」

外の夕日は並んだ家に隠れ、辺りは薄暗くなった。
俺がゴーグルを外すのはここが初めてだろうな。

夜中に輝くは紅蓮の瞳。
不適に吊り上った唇は鋭い言葉を発す。


「お前たちをテストしてやろう。自分が最も帝国学園サッカー部のマネージャーとして相応しいと思うならそのテストを明日、受けに来い。

その時は――覚悟しておくんだな」

* * * * *

「……今日の練習は休みにしたはずだが?」

鬼道は呆れ気味で部室の隅でボールを拭く苗字を眺めた。

「実は昨日の片付けが終わっていなくて……誰も居ない間に掃除をしようと思って」
「お前がしっかりと休めるように無しにしたんだぞ?」
「え、そうだったんですか?!」

苗字は慌てて鬼道の前に立つと深く頭を下げて謝った。

「折角の親切を無駄にしてしまい、すみませんでした! あ、でも私一人が休んでも練習に支障はないのでは……」
「大有りだ。部員の集中力がさらに削がれてしまうだろ。それにお前とあの女子たちを会わせないという理由もあったんだ」

苗字は苦笑し、また深々と頭を下げた。

「多分あの人たちは来ないと思います……」
「来なくて当然だ。そのつもりで言ったからな」

* * * * *

「あと少しで掃除が終わるので」と苗字はボールの方へ足を動かした。それに合わせて鬼道も歩き、隣に座ってボールを磨く。怪我人は休んでいろと何度も繰り返しながら。それに従わない事など知っているにも関わらず、ただただ彼女が心配で言い続けた。

「あの、鬼道先輩」
「どうした、苗字」
「昨日言っていた"テスト"って何ですか?」
「あぁ。あれは観察力のテストだ。俺は苗字より勝る目を持つ奴はいないと考えているんでな」

苗字は恥ずかしそうに感謝の言葉を言う。

「あ、あと……私に言った最後の言葉……」

鬼道は少し考えて、肩をびくりと跳ね上がらせ、何か理由は無いか慌てだした。その様子を伺いながら、恐る恐る苗字が口を開く。

「あの時、すごく嬉しかった……です」
「あ、あぁ……」
「こ、今度。お礼も兼ねて……一緒に遊びに行きませんか?」

鬼道の顔は赤面し、声が出なくなった。

「で、出来れば……その。これで」と右手の指を二本立てた。



―――――――

「も、もちろん……」
(あいつ等に顔向けできないな――)

2012/01/06


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