愛情と友情と…… 25/41



柚來様に捧げる10000HIT記念リクエスト

・倉間は彼氏
・ほのぼの日常物語
・稲妻二年生組友情出演

―――――――

静寂は倉間にとって耳障りでならなかった。

特にいつも能天気でわやわやとお喋りをする浜野が口をあんぐり開けて、倉間を眺めている光景は、まさに滑稽な道化師のように見えた。
先程まで机の上に上半身を預けて倉間の話を聞いていた、マイナス思考の静かな速水でさえ、倉間のたった一言で瞬時に身を引いた。

数秒間が開いて、浜野がもう一度確かめた。

「倉間と苗字って付き合ってるんだろ?」
「何回目だよその質問! 付き合ってるって言ってるだろ!」
「何ヶ月……?」
「……一年と二ヶ月ちょい」
「わぁ、ありえないって!」

浜野は首を大きく左右に振った。そして「手も繋いだこと無いなんて、お前って本当に奥手!」と付け加えた。

倉間の性格上、ここで言い返したり、話題を変えたりと身を守る体制に入るはずで、浜野も速水もそれを期待していた。だが返ってきた言葉は期待を切り刻んだ。

「……俺もそう思うよ。でも、なんか勇気が出なくってさ」
「倉間くんが弱気だなんて、信じられないよぉ。浜野くん、どうしよう」と速水が浜野の肩を揺らす。
「オレに言われてもなぁ。これは個人の問題だし」

速水はなぜこんな時に、浜野のお節介モードが発動しないんだと不安を感じた。

倉間くんの空気に飲み込まれてしまったのか。もしかして苗字さんを実は狙っていて、噂で耳にした事を確かめてみたら、事実だったことにショックを受けて、倉間くんを妬んでいるのか。そして、二人の間が進まない事をこっそり楽しんでいたり。あ、もしかして――。

「おい、速水。また変な事考えてるだろ! 少しは俺の事を」
「オレたちだって考えてるって! あ、そうだ♪ オレたちがスキンシップの機会をつくろう!」

浜野は思い切り立ち上がると、速水の腕を掴んで教室を出ていった。状況を把握し切れていない速水は猛スピードで廊下を突き抜ける浜野に引っ張られて、ついにはこけてしまった。

「あ、わりぃ。勢いあまっちゃって……」
「べ、別に大丈夫ですけど。どこに向かってるの?」
「そりゃもちろん、神童の所さ♪ さっき俺たちって言っただろ?」

嗚呼、お節介モードはすでに発動していたのだ。

* * * * *

その日の放課後、何も知らない倉間はサッカーの練習を終えて校門前にやってきた。そこには見慣れた顔で微笑む苗字がいて、キリッとした彼の表情はすぐに和んだ。

「じゃ、帰ろう♪」
「あぁ」

今日の練習の成果、新しく部員が増えた事、授業中に居眠りで怒った先生への愚痴。倉間には苗字に話したいことが沢山あった。それは彼女にとっても同じで、楽しかった一日を下校中話すことが楽しかった。

「――それでねぇ、先生が――」

彼女が話している間、さり気なく彼女の手に自分の手を伸ばしてみたりする。少し指が触れて、彼女が気付くと、ごめんと言って手を引っ込めてしまう。

「あぁ、もう何やってるんだよぉ、くらまぁ!」
「ちょっ、浜野くん押さないで下さい」
「っていうか、何で俺たちまで手伝うんだ?」
「……仲間だからじゃないか?」

遠くから聴こえる微かに騒ぐ音。
倉間はそれを察知した。

そして自主練習をするために持っていたサッカーボールをネットから取り出し、遠くの電柱に混ざって突っ立っている四人目掛けて蹴った。それは勢いよく弧を描いて電柱の、丁度浜野の顔面の高さに命中する。

「典人? どうしたの急に……」

苗字の声など全く聞こえていなかった。

「……お前ら、だだ漏れなんだよ! 昼に教室出て行った時から嫌な感じはしてた! お前ら最悪だよ、最低だよ! なんで神童たちまでいるんだよ……俺が手が繋げない所を馬鹿にしてたんだろ! くそぉ……」

倉間の目に涙が込み上げてきた。
度胸の無い自分、仲間に裏切られた感、恥ずかしさ、全てが倉間を突如に襲って、彼は耐えられなかった。

「倉間……俺たち、そんなつもりじゃあ」
「うるせぇよ!!」
「ほ、本当なんだってば!」
「もう皆、どっかいっちまえ!」

仲間の声は誰も彼には届かなかった。
そして苗字が心配そうに顔を伺う。

「典人……大丈夫?」
「も、ももういいんだ。帰ろう」と倉間が振り返り、一歩足を進めた時、苗字が彼の手を握った。
「駄目だよ、あのサッカーボールどうするの?」

"苗字の手が、自分の手の中にある"

倉間の涙はすぐに熱くなった顔で蒸発した。苗字はいつものように微笑んで、サッカーボール、つまりあの仲間たちの所へ彼を引っ張って行った。

浜野たちの目の前まで来ると、苗字はボールを拾い「典人のキック力は凄かったでしょ♪」と笑った。

「私は今の典人が好きなの。だから何もしなくて大丈夫よ」

そう言って、苗字が腰を少し低くしたかと思うと、隣の"彼"の頬にキスを落とした。



―――――――

「私たちに愛のキューピットはいらないわ」

2012/01/13


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