惚れる瞬間 22/41



「私のイノセンスにケチ付けないでよ」
「……付けてねぇ」
「嘘よ、絶対嘘! 私の短刀は弱いだの言ったでしょ!」

室長のコムイさんがどういった考えで、私と神田を同じ任務に行かせるのか全く理解できなかった。私は自分なりに彼と仲良くしようと努力しているつもりだ。けれど、神田は話し掛けると私の悪口ばかりを投げ捨てて、私と一切関わろうとはしなかった。

「イノセンスじゃねぇよ。お前が弱いって言ったんだ」
「はぁ? 言っとくけど私、神田なら勝てる自信あるし!」

……いや、それは少し大袈裟な発言だったけれど、神田は真に受けてしまい、引くに引けない状況に陥ってしまった私は決闘を申し込んだ。

* * * * *

次の日の早朝、修練場へ行くと神田が壁にもたれて待っていた。身なりも整っていて、いつものポニーテールも綺麗に朝日に輝いていた。私はというと、神田より少し短い黒髪を首元から一本の三つ編みにし、前髪は所々跳ねていて正直みすぼらしい格好だった。

私が目の前に立つと神田は即座に六幻を構えて「傷つけてもいい。どちらかが止めを差される状況になったら終わりだ」なんて勝手に決め事を押し付けて刀を振り下ろしてきた。

刃物が擦れ合う音。
互いの早まる呼吸。
そして、視界に映る血の量が徐々に増えてきた。

けれどその血は私のではなく、神田のもの。

目の前に広がる彼が傷つく光景は私には信じられなかった。任務時、コートに染み付く濁った赤はアクマから降り注がれる。神田が怪我をする場面など見たことが無かった私は、今、彼に攻撃している自分が怖くなった。

何故――避けてくれないの?

考え込むと身体の動きが鈍くなる。神田はそれを見逃すような生温い戦い方をするわけがなかった。私は一気に追い込まれて大の字に倒れこんだ。

グサリッ。

私の左耳すれすれの位置に刀が突き立てられる。その表紙に黒い糸がちらちらと私の目の前を飛んでいった。

「……常に守られているんだ。忘れるな」

私に馬乗りになっている神田はそう言った。

私は負けて、心を奪われた。



―――――――

起き上がると黒い糸の正体が分かった。

「か、髪の毛がぁぁ」
「……切った」

私は本当に守られているのだろうか……。

2011/07/16


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