意外な一面をご堪能 21/41



「……ちょっ、どうしたの。その怪我!」

私の部屋に入ってきたのはズタズタになった服を着た、血と泥のにおいを染み込ませたスクアーロだった。堂々とした態度と余裕をこいた上から目線はそこには無くて、代わりに絶望に満ちた瞳と背中で私の目の前に現れた。

「……何でもねぇ」
「何でもない訳ないじゃん! どっからそんな言葉が出てくるのよ」
「う゛おぉい。デケェ声出すんじゃねぇ」

力の無い雄叫びを上げて近づいた彼の顔が左肩にうずくまった。垂れ下がった操り人形のような両腕は、微弱ながら私の腰に巻き付いた。荒く、苦しそうな呼吸は私の耳元で続きながら、その間合いには「よかった、よかった」と震えた声が耳にへばり付く。

「それだけじゃ、分からないよ……」
「いいんだ、お前が無事なら。それで」

私にとっては凄く不満だった。

――人の気持ちも知らないで、自分の感情だけを相手に押し付けないで。

そう思ったが、彼の腕を振り解く事は出来なかった。こんなに弱りきったスクアーロなど、今の私なら、いとも簡単に突き飛ばせる筈なのに、どうしても出来ない。

「……名前、名前……」
「私は、ここにいるよ?」
「…………」

私が答えると腰に巻かれていた腕の力が徐々に強くなっていった。そして肩に何かが染み渡って、私の服を濡らしていく。

――スクアーロ。そんな男だった?

勇気を振り絞って彼の腹部に手を置いた。

そして、思い切り彼を突き放した。すると、どうだろう。スクアーロの顔は歪み、現れたのはベルフェゴールだった。ベルの頭の上にはまー門が浮いていて二人してニヤニヤこちらを玩具のように楽しんでいた。

「……なんであんた等がいるのよ」
「ししっ。別に、遊んだだけだし」
「ちょっと面白そうだったからね。でもベル、ちゃんと支払いはしてくれよ」
「……どうでもよくね? そんなの」

そこで分かってしまった真実。
こいつ等、公開処刑決定だ。

「名前も良かっただろ? あのカスザメとの甘い時を味わえて。しししっ♪」
「……二人ともぶっ殺す!」



―――――――

……まぁ……内心、少しは、ね。

2011/07/30


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