え、嫌いなの? これ 9/41



稲妻町の河川敷は十年前とは比べものにならないほど、きれいな公園になっていた。タイルが敷き詰められていたり、無かった木が植えられていたり、とても寛ぎやすい環境に変わっていた。けれど、どんなに居心地の良い場になってもサッカー場は消えなかった。

どんな時代でも、その場所で練習する子供達はいるのである。

「……次は左ポスト中央」

ぶつぶつと呪文を唱えながら、ボールを蹴る少年がいた。
勢いよく蹴られたボールは弧を描いて、先ほど言っていた場所に命中する。そして大きく跳ね上がったかと思うと、それは少年の手前で落ちた。

「ちっ、まだ弱いか」

苛立ちながらも自分が指定した所にボールを蹴り続ける少年。ボールはクロスバーとポストにばかり当たって、一向にネットに入ることはなかった。

それを橋の上で眺める少女がいた。紙パックの牛乳を喉を鳴らしながら飲み続けている彼女は、ふと唇で挟んでいたストローを離した。

「くーらーまー! さっさとゴール決めろー」
「うるせぇよ。苗字には関係ねぇだろ」
「あんたの成長を見届けてやろうって、わざわざ来てやったんだぞ」

倉間は「頼んでねぇ」と地面に吐き捨てた。

口では嫌味を言いながらも、苗字は倉間の蹴り方や狙いの定まり、あらゆる面を上から眺め、感心していた。大きめのパーカーを羽織って、動きやすいスウェットを穿いた、何とも不格好な姿の彼女でもマネージャーに変わりはないのだ。

「……くーらまー! 私なりに考えてみたよ」
「……はぁ?」

苗字はパーカーのポケットから四角い箱の様なものを倉間に向かって落とした。慌ててキャッチし、よく見ると紙パックの牛乳だった。

「私が邪魔しても、集中力は継続。シュートコントロールもかなり上手くなったと思う。あとボールの落ちる場所とかの分析力はまぁまぁかな」
「……それで?」
「睨まないでよ、私マネージャーなんだし。それに倉間ももう分かってるでしょ?」

ボールの落下地点がずれるのはキック力が無いからだ。それは、はじめから分かっていたが、どうしても改善できない。

「私の提案はそれ。アンタ自身が大きくなる!」
「やっぱり俺を茶化しに来ただけだろ!」
「あはっ♪ バレた?」

橋の上に居る所為か、それとも頭上で彼等を眺める太陽の仕業か、苗字の笑顔の周りに金粉でも撒き散らしたかのような輝きが見える。
その顔に少しばかし見惚れる倉間は、きっとまだ自分の気持ちを理解していないのだろう。

「私が戻ってくるまで、それ飲んで休憩してなさい。今足を壊しても意味ないんだからね!」



―――――――

「ちっ。牛乳嫌いとか言えねぇじゃん」

2011/10/20


prevlistnext


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -