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▽ 2P

穏やかな夕凪に包まれた海と波と木々を、得体の知れぬ恐怖が襲ったのはついさっきのことだ。
少女は傍らに座り込む親友の直ぐ横で、腰を下ろし膝を付いてじっとしている。
一体何が起こっているのだろう?少女は必死に頭の中で反芻させた。
これから楽しい臨海学校が始まる、筈だったのだ。にも関わらず、今目の前で繰り広げられている光景は一体何なのか。遠くから聞こえて来る喧騒も、直ぐ近くで響く少年と化け物の戦いの音も、まるで何一つ現実と噛み合わない。まるで信じられそうにない。
見た所少年と化け物の攻防は先ず先ずのようである。少年が化け物と戦うその側では、彼の幼なじみである少女が呆然と立ち尽くしていた。このまま行けば勝てるかも知れない。が、しかしここで勝てたとしてそれでどうなると言う。
気配で分かる。自分たちは既に奴らに囲まれているのだ。せめて自分の身体がもう少し丈夫であれば、加勢することも出来ただろうか。

(あの男は…もうこの化け物にヤられてしまったのかしら…。)

ふと頭に過る男の姿があった。あの男のことだ、きっと誰よりしぶとく生き延びる筈。それに、彼の持つ魔法は一体ずつで戦えば恐らく最も強い。だから大丈夫、大丈夫だ。
何度そう自分に言い聞かせても、不安は拭い去れない。
何故自分がこんなに不安になっているかも分からぬまま、少女は最後に聞いた彼の痕跡を思い浮かべる。
彼も、確かこの化け物と戦っていたのではなかったか。背を向けたと同時に、彼の魔法が放たれる音を聞いたような記憶が残っているから。今でも耳を澄ませば、彼の戦いの音が聞こえて来そうな気さえしてしまう。
だが彼女の期待に反するように、彼の魔法の音だけがどうしても聞き取れない。化け物のうなり声はいくらでも聞こえて来るのに。

不安は、募るばかりだった。

Fin




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