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▽ 1P

それはひどく禍々しい獣だった。
ただならぬ気配を纏ったその獣は、潮の匂いと宵闇に紛れつつ容赦なく自分たちに向かって襲いかかって来る。
ここで幸いと言うと怒られそうだが、どうやらこの獣共の狙いはここで直接自分たちの命を奪うことではないらしい。襲われたクラスメートは皆一様にどこかへ送られているようだった。
最もだからと言って、はいそうですかとここで簡単にやられてしまう訳にも行かない訳だが。

あれから一体何体屠ったのか。気付けばクラスメートたちは殆どがその姿を消してしまい、いるのはあの若年寄だけになっている。しかしこの多勢に無勢の状況では、それとて何時まで続くか分かったものではなかった。
何しろこの獣、倒せど倒せど次から次と無尽蔵に湧いて出て来る。
この若年寄の根暗男とはいずれ手合わせでもと思ってはいたが、それがよもやこんな形で力比べの機会が訪れようとは。
皮肉と言わずして一体何と言えば良い。口元だけで苦々しく笑う。

(なぁ、無事でいるかい?)

戦いの最中で、ふいに頭に過る少女の顔があった。キャンプファイアーの近くにいたため生憎とその姿を確認することは出来なかったが、あの猫娘がヘマでもしていない限りは今もきっと無事でいるだろう。

「おいッ!!何よそ見してるんだ!?」

声を聞いた時には既に手遅れで、獣の体当りが直撃する。砂浜へ身体が無惨に打ちのめされるのを感じた。他人を心配して先に自分がヘマをするだなんて、何てザマだ。残念ながら今回の力比べは若年寄に軍配が上がったらしい。
段々意識が遠くなって行く。少女の顔が、思い浮かんで消えて行く。伸ばした手は空を切り、そのまま地面に着いた。

Fin




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