疑問疑問愚問?(日吉)





「眠い」
「…寝ればいいだろ」


窓際。
もうすぐ春。
暖かな陽射しが、私を包む。
ぽかぽか、うとうと。

観察してやろうと思って座ってみた、日吉の目の前。
目的から逸れて、私は日だまりの中夢に誘われた。








…ふわり、と今度は物理的な暖かさ。
同時に、どこかで嗅いだことのあるような匂い。
何だっけ。

考えた一瞬。

目を開けると、辺りは真っ暗。
びっくりして体を起こすと、肩から何かが落っこちた。


「何落としてるんだよ」
「…日吉?」
「…ったく、汚れるだろ。」


さっさと拾え、と命令口調。
何と無くあわてて拾うと、それはテニス部のジャージ。


「ほら、返せよ」


手から離れていくそれ。
日吉の、なんだ。


「かけて、くれたんだ」
「風邪でもひかれたら困るからな。ほら、帰るぞ」


周りを見れば、人がいない。
…起きるまで、待っててくれた?

何だかよくわからないけど…日吉、優しい?

他の女の子には遠慮したりするのに、私には容赦無かったり。
むしろイジメか、と思うくらいの罵声を浴びせられたりするのに。

日吉に優しさを感じるなんて。
…そもそも、そこまでされてまで着いて歩く私も変?


「日吉」
「なんだ」
「まさかとは思うけど、待っててくれた、とか…?」

先を歩く日吉が、いきなり立ち止まって振り返った。
私もびっくりして立ち止まる。


「悪いか」
「…いや、悪かないけど…」


そんな恥ずかしげもなく。
こっちが恥ずかしくなる。







「木川」
「何?」
「お前、家どっちだ?」
「え…あっち」


道を指差せば、日吉はそうか、とその道に向かって歩き始めた。
…またまさか、と思う。


「…送ってくれるの?」
「1人で帰る気か?」
「え…まぁ…」
「俺は何のために待ってたんだ」


さっき風邪引かれたら困るって言ってたじゃんか。
言ってることがハチャメチャ。

…なんて、いつも言えるのに何と無く言えない。
ただ、前を歩く日吉について歩いた。


「家、どの辺だ?」
「え…あぁ、あの、滝さんの家の近く」


滝さんの家は本当に近く。
日吉なら知っているはずだから、分かりやすいと思ったんだけど。


「滝さんの家…」
「あれ、知らない?」
「いや、知っている。…お前から滝さんの名前が出てくると思わなかっただけだ…」


…あれ、不機嫌?
何と無く押し黙る他無い空気。


「…滝さんとは仲がいいのか」
「え、いや、たまに話す程度だよ!お姉さん、みたいな…」
「お姉さん…?」


少し経って、日吉はフッと笑った。
思わず心臓が跳ねる。
不意討ち過ぎる。


「そうか」
「うん」
「じゃあ、良かった」


…良かった?
何が、と聞こうとしたときに、日吉が小さく「お」と呟いた。


「ここか、『木川』」
「…うん。」


いつの間にか、家の前。
表札を指差して、日吉は言い当てた。


「じゃあ、また明日」
「あ…うん…」


ぽん、と優しく私の頭を叩いて、また少し笑う。
私は歩いていく日吉を呆然と見送っていた。


「あ…日吉!」


ハッとして、叫ぶ。
日吉はゆっくり振り返った。


「送ってくれて…ありがとう!」


日吉は少し手を上げて、また背を向けて歩き出した。

私は、さっき軽く叩かれた部分に触れる。
何と無く、まだそこに日吉がもたらした熱が残っているような、気がして。







- fin -




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