オトナなコドモ。(財前) 部屋に充満する、甘ったるい缶チューハイの匂い。 リキュールと偽者の果物が混ざったそれが…この人には好ましいらしい。 「どうしたの光。人の顔ジーっと見て。」 「…いや?」 「そ?」 兄貴と同い年の、俺たち兄弟の幼馴染み。 そしてぶっちゃけ、俺の思い人である彼女はもちろんもう成人していて。 対する俺はまだ中学生。 …当然ながら、「そーゆー意味」では俺のことなんか眼中にもないだろう。 最初は彼女はうちの兄貴とそんな関係なのだと思っていた。2人で仲睦まじく同じ高校に通う姿は、俺にはとても大人びて見えていたものだ。 でも実際は、彼女が紹介した女友達とうちの兄貴は今日、結婚した。 披露宴の会場で、隣のテーブルに座る彼女の横顔を盗み見た。 そして俺はそのことを割りとすぐに後悔する。 …寂しそうな顔をして、2人を見ていたから。 そんな経緯を経て、「付き合え」と笑う彼女の部屋に俺はいる。 働き始めると同時に実家を出た彼女が住む、決して広くはないアパートの一室。 缶チューハイは3本目。今はマンゴーカシス味らしい。 「…なんやの、ヤケ呑み?」 「あはは、近いものがあるかも。」 「どーでもえぇけど、中学生巻き込むな。」 つまみのイカげそをぽりぽりと前歯で噛みながら俺はぽそりと呟いた。 彼女は謝る気もなさそうに「ごめんごめん」と笑う。 「やー、だって、寂しくなるなと思って。」 「は?」 「だって、幼馴染みと親友が結婚しちゃうのよ?…もう、前みたいに3人でバカ騒ぎなんて、できないじゃない。」 …何や、そういう意味やったんかと言うちょっとした失恋気分回避。 そして「んなことか」とため息。 4本目のチューハイに伸びる彼女の手を捕まえる。 俺の不意をついた行動に、彼女は目を丸めながらこちらを見た。 「俺がいるやろ。」 「……へ?」 なんて月並みな…それも、昔の青春恋愛ドラマみたいなくっさい台詞。 もしも部長が同じこと言ってたら、笑い転げるに違いない。 でもこの酔っ払いには…これくらい、ストレートな方が伝わるはずやろ。 「俺はずっとアンタの…夢の側におるから。」 「…光、」 「だから、寂しく、ない…」 思わず語尾がすぼんでいく。 こちらにまっすぐ向かう彼女の視線が…思いのほか、酒気を帯びていなかったから。 彼女の手に触れていた手を、ぱっと離す。 「そーゆーこっちゃ!」と意味の分からないことをのたまった俺はそっぽを向く。 「…ありがと、光。」 そう囁いた彼女の声がやけに嬉しそうで優しかったなんて。 俺の手にあるウーロン茶のグラスが、一気に熱くなった気が、した。 - fin - 酔っ払った年上幼馴染みならちょっとくらい背伸びしても恥ずかしくないと思いきや、やっぱり相手は大人で恥ずかしくなっちゃう財前さんが書きたかった。 黒蓮さんとの相互記念。遅くなってごめんなさい…!! |