しあわせ(日吉)



部活が終わった後の部室…。
ミーティングが無いにも関わらず、レギュラー部室内にはレギュラー全員(+滝さん)がまだ残っていた。


「でよ、バスケ部引退したじゃん?萩ぃ」
「そう言えばそうだってね。」
「そしたら全員彼女出来たって!」


…どうでも良い。
そう思い、帰ろうとロッカーを閉める。


「なんや岳人、彼女欲しいんか?」
「普通欲しいだろー!なー!」
「いや、俺は良いかな?」
「…俺様も。」
「俺欲C→!」


ご意見は様々な様で。
お先に失礼します、と小声で言って出て行こうとすると…

がっしりと、誰かに手首を掴まれた。


「…何ですか、向日さん。」
「日吉はっ?」


何と無く、視線を感じて顔をあげると…。
何ですか、普段は人を空気みたいに軽くあしらっているのにこの注目加減は。

…正直発展させたくないから…言いたく無かったけれど。
寧ろ話題にされなかったから。


「…欲しい…というか…」
「マジでっ?」
「…彼女、いるんで。」


手首を掴む力が緩くなったのを感じ、パッと手を離してドアを押して部室を出た。
…煩くなる前に帰ろう。


と、思ったけれど。
ドアを閉めようとした隙間から手が伸びてきて再び俺の手首を掴む。
そして次の瞬間には部室に戻っていた。


「…今度は何だ。」


手首を掴んだ張本人、鳳を見上げながら溜め息をついた。
周りを見ると…あぁヤバい、部室内全員が好奇心の固まりに…。


「いつから!?」
「煩いです向日さん。…2年になったころです」
「先輩?後輩?それとも同輩?」
「(滝さんまで…)…同輩です。」
「氷帝っ?それとも立海?」
「何でその2択なんですか、芥川さん。…まぁ氷帝ですよ」

『名前は!?』
「木川夢…。」


別に隠すことではないから良いけれど。
溜め息混じりにそう言った。


「へぇ…まさか日吉に彼女がいるとはな」
「あら景吾、悔しい?」
「…な訳あるか。意外だっただけだ。」


…何と無く失礼じゃないですか、跡部さん。
隣でクスクス笑う滝さんも滝さんだ。

そしてその少し奥で宍戸さんが溜め息を漏らしていた。
…そう言えば宍戸さん(彼女有)がこの間は質問責めにあってたな…。嫌だ。


「まぁ…日吉」
「はい」
「幸せにしてあげるんだよ。…ただでさえ忙しい身なんだから。」
「えぇ」


滝さんがそう言うと、向日さんと忍足さんが頷いた。


「ほら、待たせてるんじゃないの?」
「はい、失礼します」


やっと解放された。
早足で昇降口に行き、佇む人影に声をかける。


「夢」


笑顔で振り向く夢を見て、少しだけ滝さんに感謝した。
改めて、幸せにしてやりたいと思えたから。





- fin -




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