野球で例える恋の話(財前)





「俺はいつでもあんたを思ってますよ。」
「私はぜんざい食べてると君を思い出す。」


…どっちもクソ甘ったるい話やんなぁ、と俺は内心ため息をついた。

両思いのくせに。

直球に見せ掛けたスライダーのような言葉をなげる財前と、バットを当てながらファウルを続けるような木川。
…って何俺テニス部員なのに例えが野球になってんやろ。

試合形式の練習の合間。
一試合が終わり休憩しようとやってきたベンチに木川の姿があった。
俺を見るなり俺の座るスペースを空け、「お疲れ」とドリンクを渡された。

…俺には優しくできんのにな。なんでそれが財前にはできないんやろう。
俺のため息に気付いたらしい木川がゆったりと俺に顔を向けた。


「何白石。幸せ逃げるよ。」
「自ら逃がしてるお前よりはましや。」
「…なにそれ。」
「それを教えられるほど、有能な監督やあらへんのだけど。」


強いて言えば俺は審判でありたい。
セカンドあたりの。
点数にはあんまり響かないところ。


「…解説…いや、観客も捨てがたいなぁ。」
「何の話してんの。」
「お前の幸せは願ってる。ただな、俺に決定打は打てへんって話。」
「………あぁ。」


今までの話の断片から、話を汲み取ったらしい夢。
それからふ、と可笑しそうに笑った。


「テニス部のくせに、さながら野球のようね。」
「ビンゴ。何でか野球に当てはめとった。」
「…財前がピッチャー、私がバッターか。」
「そうや。」


なるほどねぇ、と頬杖をつく。


「だとしたら財前のそれはとんでもないワイルドピッチだわ。デッドボール。」
「…は?」


…そんなぶつかってるようには思えない、と木川に視線を送る。
木川は少し笑って財前に視線を送った。


「全部、当たってくるのよ。…心に、どすん、て。」
「…それって…」
「打てなくはないんだけどねぇ。ピッチャーゴロではつまんないし。」


木川の視線に気付いたらしい財前が、木川を見て…らしくもなく、うれしそうに笑っている。
そしてふらりと近づいてきた。


「いつか打つわ。財前を驚かせるようなホームラン。」


あんたもね、と笑って木川は立ち上がり、財前のドリンクを手に取った。


「…期待しとるでー…」


もし、あいつが財前に満面の笑み、だとか「好きだよ」発言とか…
そんなホームランを放ったら、財前もきっと完敗を認めるだろう。

ドリンクを渡されただけでちょっと嬉しそうな健気な後輩を見て、俺はまたため息をついた。




- fin -


本当は黒蓮さんに捧げるものになるはずだったが、何かあまりにもな内容になってしまったために捧げ物としてはボツ!←
財前さんしゃべってねーし!

でもこれはこれで好きなので温存。




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