約束(煙草と酒と肉まんと続編)





俺は都合のいい夢でも見ていたのだろうか。



昨日の夕方、部活が終わって帰宅し、いつも通りベランダに出た。
そこで、隣に住んでいる図書室の司書・夢さんに会った。…まぁベランダに出る目的はこの人に会うためだから、そこまでは普通だ。

問題は会話の内容。




「ねぇ白石少年。」
「はい?」
「明日さ、一緒に学校行こうよ。朝練あるときって何時に家出る?」
「え…と、7時に間に合えばえぇから、6時50分くらい…」
「そっか。了解……っと、電話だ。じゃあ、また明日!」




…一緒に、学校?

隣人であり、目的地は同じだけど…
彼女は職員ではあるが司書のために8時に学校に着いていれば問題がないらしく、朝練で早い俺よりもずっと遅くに家を出ている。
それが何で、一緒に…。

いろいろと思考を巡らせながらも体に染み付いた習慣をこなし、家を出る時間を迎えた。
すると…ほぼ同時に隣の家の扉も開いた。


「あ、おはよう、少年。」
「…おはようございます、夢サン…」


…ホンマに出てきおった。
夢や、なかったやん。


「くぁ……んー、失礼。眠い。」


鍵をかけながらあくびを一つ。
閉まったことを確認すると、俺を見た。


「んじゃ、行こっか。」
「あ、はい。」


エレベーターへ向かい歩き出す夢さん。
俺もその背を追いかけた。








「何で今日は早いんです?」
「ん?あぁ、渡邉先生が今日お休みでね。代わりにテニス部の監視しておいてって校長に言われて…」
「……はぁ!?」


ちょ、普段からオサムちゃんおらん……
って、突っ込みはさておきだ。
夢さんが、俺らを見とる…やて?


「え、何?」
「え、あ、いや、聞いとらんかったから。」
「…部長に伝えとくって言ってたのに。少年部長でしょ?おかしいなあ。」


どう言うことだろ、とブツブツ呟きながら夢さんは携帯でメールをチェックしはじめた。
何やもう…朝から俺こんなに浮かれてしもうた。


「あ、ちなみに放課後の練習も見てるからね。終わったら一緒に帰る?それとも友達とか…」
「夢さんと一緒に帰ります。」
「お、嬉しい即答だねぇ。じゃあ帰りましょうか。」


…帰りの約束まで取れてしまうとは。
今の俺、リア充以外の何者でもあらへんわ。

好きな相手が学生だったらよかったと、何度思ったことか。
それは放課後デートとかにあこがれて、で…。
…今、何気なく誘ったら乗ってくれるだろうかと、少しだけ期待を抱いてしまった俺は次の瞬間には実行していた。


「せや、夢さん。駅前にうまいたこ焼き屋あるの知ってます?」
「たこ焼き?…そういえば、大阪に来てから学祭で食べただけで食べてないや。」
「…せやったらせっかくですし、今日行きません?」
「ん?うん、いいよー」


……。
やってやったで、姉貴…!

いつまでも告白やらデートの誘いやらを出来ずにいた俺を割りと本気で心配していた姉貴に、心の中で報告する。
絶対デートとかこの人は思ってないけど。
でもデートしたもん勝ちやで。


「あ、でもあんまり大人数におごれないから…」
「俺らだけで行けばええやろ?」
「…大丈夫かなぁ。」
「大丈夫や。」


その辺は小春が空気読むから。
「じゃあ大丈夫かなぁ」といらん心配をする夢さんに笑いかける。


「んじゃあ、今日1日顧問代理、よろしゅう頼みますわ。」
「うん。」


校門前。
ここからは部室に直接向かう俺と、職員室にいったん立ち寄る夢さんで分かれる。
でも何や…またすぐ会えるって、思いのほかうれしいことやな。



少し浮かれた足取りで部室に入る。
俺の機嫌が良い理由を部員たちが知るのも、あとわずかな時間での出来事だろう。






- fin -


放課後デートしたんじゃないでしょうか。←

ゆいちゃんにささげます。待たせてごめんね。






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