「…本当に福島に来るなんて…もの好きだねぇ、白石少年。」
「だって、約束したやないですか。」
「…いやでもまだ君中学生……まぁ、いいか…」


そう、俺は今夢さんの実家のある…福島にやってきた。
…ほんま、長旅やった…。

と、言うのも…例の震災があって、その現状を学校代表で取材し、レポートにまとめて提出すると言う主旨で。
福島出身、と言うことで夢さんが同行することになっただけの話。

伊丹から飛行機に乗り、福島空港へ。
そこから高速バスで福島市へと向かう。
福島市では福島駅前でバスを降り…近くに宿泊するホテルがあるはずだ。


「…久々に来たわー、福島。」
「………」


バスを降りながら夢さんはポツリと呟いた。
福島に移動する道中、夢さんの家族は今隣の山形県に避難していることを聞いた。
移動中にも仮設住宅を何件か見たが…そこも、本来なら2年で終わるはずだったのだが、思うように復旧が進まずにしばらくはそのまま、だそうだ。


「福島市内で非難生活を送るのは大体浜通りの人たち。もちろん県外に避難する方も浜の方の人が多いけど…福島については、海沿いじゃない人たちも県外に避難してたりするの。」
「そうなんや。…何や、普通に生活できそうやけど…」


降り立った福島の地。
思ったよりも人が行き交っているし…建物の損傷なんかもほとんどない。


「放射線、よ。…会津にいたっては東京よりも放射線量低いのにね。」
「え…そうなん?」
「そう。…駄目ね、他県の方たちの偏見ばかり気にしてるけど、福島の人も偏見を持ってるの、結局。」


良く見れば…子供たちはマスクをしてる子も多い。
それに…


「…夢さん、」
「ん?」
「子供たちがみんな首から下げてるあれ…何?」
「あぁ、アレはね、被爆量を測定するバッジ。」


月に一度、回収して放射線量を測定するらしい。
元は医者や看護士など、医療関係者が見につけているものだとか。


「…あの震災から、ずっと…」
「そう。」


…何でか、胸が締め付けられる思いだ。
かつて大阪でも阪神淡路大震災でかなり被害があったけれど…
確かに、建物に対する被害は少ないようだが、放射線なんて見えないもので苦しみ続けるなんて。


「まぁ、今はそんなに放射線量も高くないから。だから白石少年も来れたのよ。」
「…せやな」
「怖がらせてしまったなら、ごめんね。熱弁してしまったかな。…何てったって、私も、あの震災の日はまだ福島にいたしね」
「え!?そうなん?」


それは初耳だ。
…でもよくよく考えてみればそうだ。まだ学生だったはず。


「卒業旅行から帰って、2日目。リビングで猫とテレビ見てたかな。」


テレビからけたたましい大音量の緊急地震速報が流れだしたと同時、だったらしい。
家にいた夢さんはおばあさんを机の下に押し込み、慌てる猫を抱き抱え、犬を抑えてただひたすらに耐えていたらしい。


「弟もいたんだけど…弟とお婆ちゃんが頼れるのは私だけだしってね。」


長かったなぁ、と笑う。

それからも余震が続き、仕事を切り上げて帰ってきた両親とずっとテレビを見ていた。


「幸い、ライフラインは水道だけ止まったくらいでね。それも予告があったから、何とか凌いだんだけど…」


テレビからは津波の映像。
それも数日前まで一緒に卒業旅行に行っていた仲間たちの住まう地域での津波ばかりで、その日の夜は眠れなかったらしい。

電話も、メールも繋がらない。
ただひたすら祈ることしか出来ない。


「幸い、みんな無事だったんだけど」






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