君を想う。(仁王+幸村友情) ※「隣の」主人公。未来捏造、結婚済み! 「忘れ物ない?」 「ん、多分。」 ゆるゆるのネクタイを直してやれば、けだるそうにあくびをひとつ。 ぺしっとおでこを叩いて、渇を入れる。 「気合入れなさいよ。」 「はいよ。行って来る。」 「いってらっしゃい。」 どこぞの新婚さんたちのように、毎朝甘ったるいチューとかはないが… これでも結婚3ヶ月。友人期が長く、付き合う時間も長くて…なかなか結婚に踏み切るタイミングをつかめなかった。 …と、言うか、結婚と言う制度を忘れていたというか。 私の妊娠をきっかけに、精市に「結婚しないの?」と背中を押され、「そういえば」みたいな…そんな感じ。 いわゆる、出来ちゃった結婚である。 うちの旦那の職業は詐欺師……などではなく、今はホテルマンをしている。 私は…今は休んでいるけど、母の影響を大いに受け、テレビ局のアナウンサーをしている。 一応、夜のニュースの看板アナウンサーだったり。 産休の今はほぼ家にいて…たまに突然やってくる訪問者の相手をしてる。 …まぁ、どんな人たちが来るって、大体分かるとは思うけれど。 今日も今日とて、朝早くに連絡が入っていた。 「いらっしゃい、精市。」 「やぁ、夢」 今日は休みだと言う、幼馴染みさまがやってきた。 相変わらずマイペースと言うか…今は内科医の卵で、大学病院には定休日がないから…迷惑なことに不定休らしい。 そしてたまにこうして遊びに来る。 …新婚で男を連れ込むなんてと勘違いされるだろうが、そこは何と言っても幸村精市様だ。うちの旦那も認識はしているし。 「仁王は?」 「仕事よ。紅茶とコーヒー、どっちがいい?」 「紅茶で。」 了解、と返事をしながらスプーンに2杯のお砂糖をカップにあらかじめ入れておく。 …精市の好みは大体把握している私が、怖い。 淹れた紅茶を差し出せば「ありがとう」とやわらかく微笑んだ。 何でいつまでも独身を貫くんだろうこの人は、と少し思う。その気になれば結婚できるだろうに。 「精市…私たちに結婚勧めといて、貴方は結婚しないの?」 「え、俺?…うーん、俺は結婚向いてない気がするんだよね。」 「そう?」 「うん。ほら、結婚なんてしちゃったら、俺ここにお茶になんて来れなくなりそうだし。」 …いやいや、問題はそこじゃないだろう、と思うが…。 でもまぁ、相変わらずマイペースに他人の一応女である私に会いに来るっていうのは…奥さんの方が気にするだろう。普通の女性ならば。たとえ1ミリもそんな気が起きる可能性がないと、私たち自身が確信していたとしても。 「ほぉら、寂しくなってきたでしょ?」 「バカじゃないの。」 「えー、俺は夢たちが結婚決めちゃったとき、少し寂しい気がしたけどなぁ…」 「……はい?」 自分で勧めたんじゃん、と言う突っ込みはさておき。 そんな話は初めて聞いた。…って言うか、寂しいって、何事? 私が疑問符を頭にいっぱい並べていると、見越した精市がクスリと笑った。 そして紅茶を一口含みながら、私を見る。 「大切な幼馴染みが取られちゃうって言うのと、大切な仲間が取られちゃうって言うのと。」 「…それって…」 「仁王にも、夢にも嫉妬。」 …………。 それはまた、なんと言うか…。 「奇特と言うか…忙しいというか…」 「だから、寂しいんだって。…まぁ、2人とも変わらず構ってくれるから今は平気だけどね。」 …我が幼馴染みながら、不思議な人だ。 そう苦笑を漏らしつつため息をつくと、机に乗せていた携帯が鳴った。 画面には「メール受信:仁王雅治」の文字。その文字をタップして、メールを開く。 「…今日の夜は外食だって。精市も来るか聞いてってさ」 予約するつもりみたい、と返信画面を開きながら答える。 一緒に来るものだとたかをくくっていると、精市は静かに首を横に振った。 「まさか。そこまで邪魔できないよ」 「…え…何よ今さら。…別に、精市なら気にすることないと思うけど。」 「いくら俺でも、夫婦水入らずは邪魔しないって」 「…あぁ、そう。」 その返答を受け、「精市はパスだって」と返信する。 送信ボタンをタップしながら、精市を見ると…精市は首をかしげながら、少し笑った。 「夢は、仁王と結婚して、幸せかな?」 「え…うん、まぁ、好きなひと、だし…」 幸せな方なんじゃないかな、と思うが。 そう答えると精市は「そっか」と瞳を閉じた。 「…え、何よ」 「んーん。俺が勧めた結婚だからさ。二人が幸せじゃないと困るかなって」 「…そりゃあ、精市の勧めがきっかけにはなったけど…」 でも、と空になったカップを見つめながら、続ける。 「ちゃんと、お互い好き同士だから、大丈夫よ、精市。」 「…うん、そうだよね」 少し間を置いて… 精市は、優しく笑った。 どこまでも私たちには優しい精市。 ねぇ、私たちは十分貴方に幸せを貰った。 だから今度は、貴方が… なんて、贅沢な話だろうか。 でもそう願わずにいられない。 どうか、精市がゆるぎない幸せを手に入れられますように。 -fin- 新婚3ヶ月にして熟年夫婦の香り。 これくらいが仁王夢にはちょうどいい。 |