Next Day(切原)



だんだん、秋らしくなってきた今日この頃。
少し過ごしやすくなった空気に、やさしい日差し。…それに誘われない俺はいなくて、中庭のベンチでうとうとしていると。


「あら、切原くん。」
「んあ……お、夢先輩じゃないっすか。ちわ。」
「こんにちは。なに、お昼寝?」


幸村部長の幼馴染にして仁王先輩の隣人…何だか最強ポジションにいる、夢先輩が立っていた。
…もし、俺がその立場だったら死んでたような気がする。


「そうっす。先輩もいかがです?」
「……そうだね、それもいいかも。」
「え。」


断られるかと思ったら、先輩は俺の隣に腰掛けた。
そして「はい。」と持っていたりんごジュースが渡される。


「え、先輩のじゃ…」
「んー?オレンジかりんごか悩んで、どっちも買ったんだけど…オレンジの気分になったから、それは切原くんにプレゼント。」
「どうもっす…」


うわぁ、気紛れな人だな…
さすがあのポジションにいるだけあるわ、と思いながら俺はパックにストローを刺した。


「ってか、先輩なんで中庭に?」
「ん?あぁ、逃げてきたのよ。魔王と詐欺師からね。」


マネージャーやれってうるさいの、と苦笑い。
え、俺もマネージャーやってくれたらうれしいんすけど、と言ったらいなくなりそうだからやめておこう。
その言葉を飲み込むように、ストローに口をつける。


「すっかり秋ね。」


ふ、と先輩が空を見上げてつぶやいた。
俺はただ、その横顔に見入ってしまう。

なんか、ほんと、綺麗な人、なんだよな。


「秋といったら…切原くんは何の秋?」
「え、俺?俺はー…んー…」
「あはは、そこはスポーツって言わなきゃなんじゃないの?」
「あ、そっか。…先輩は?」
「私?私はもちろん食欲かなぁ。」


おいしいものいっぱいあるよね、と先輩はうれしそうに笑った。
…結構な食通みたいだし、たしかにちょっとそれっぽい。


「精市は芸術っぽい。」
「言えてるっす。丸井さんは年中食欲っすよ。」
「丸井はねぇ…」
「あ、先輩、秋といえばもうひとつ。」


もうひとつ、あるんすよ。
俺の言葉に首をかしげる先輩。


「俺の、誕生日。」
「へぇ!いつ?」
「昨日。」
「…昨日!?うっそ、ごめん。なんもお祝いできなくて。」
「はは、いいっすよ。それに、これ貰いましたから。」


りんごジュースのパックを揺らす。
先輩は「それ100円」と苦笑い。


「いいっすよ。気持ちの問題です。」
「いやいや、別にプレゼントとか思ってあげてないから…」
「さっきプレゼントって言ってくれたでしょ?」
「あ、あれは…」


別に、ものは、いらないし。
俺は立ち上がる。先輩は俺を見上げた。


「一言だけ、いいですか?」
「ひと、こと…」
「はい。」


秋の風が気を大きく揺らす。
先輩の髪も一緒に流れて一瞬、顔を隠す。

その風が収まって、先輩が髪をかき上げると…


やさしい、笑顔。



「誕生日、おめでと。切原くん」
「…ありがとっす、夢先輩。」



俺の憧れが、目の前で微笑んで、俺に向かって、一番欲しかった一言を、くれた。



「最高の誕生日っすね。」
「…大げさ。」



世界一幸せな、誕生日の次の日。






- fin -


切原くんの気持ちが恋なのか先輩としての憧れなのかはなぞ。
忘れててごめんね。







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