アイスピック(千歳) 「その心、氷のごとくたいね」 「…へ?」 冷徹とかそういう意味ではない。 意思の硬さ…とでもいうか。 「そろそろ俺のこと好きにならんと?」 「それでさ、私が千歳を好きになろうと思って好きになった、なんて言ったら信じるの?」 夢はあきれ顔でため息をついた。 …ほら、俺と話してるのに視線は全然違うところ。 お前は、俺を好きになってくれない。 俺はこんなに好きなのに。 「…はぁ〜…あっためる作戦じゃうまくいかんから、アイスピックとか使ってみるのはどげね?」 「え、砕くの?」 「その方が溶けやすか」 「…傷つくのとか嫌なんだけど。」 …俺も、好きな子いじめる趣味はなかよ? んー…砕く、かぁ… 「わかった。お前のその恋愛に対する心だけ砕けばよかたい。」 「は?」 「お前、恋とか面倒なだけだって、言っとったばい?」 「…まぁ。」 「その心をアイスピックで粉々にすればよかたい。」 そしたら、この先もずっと解けるの待ってるよりも効率がいい。 「よし、こうなったら明日から隣で恋愛小説の音読をしちゃるばい」 「……すごい困る」 「逃げることはできんばい」 苦笑いする彼女に、俺は満面の笑みを返す。 何だかんだでいつもそばにいてくれる、その彼女の本当の気持ちに気付くのはもう少し先の話。 - fin - |