所謂、間接キス。(切原)




こう言うとき幸村部長は鬼だと思う。(言ったら殺されるから文句は言えないけど!)

俺の誕生日に他校との合同練習とか…嫌がらせだ。(まぁ俺の誕生日なんて覚えてる人いないだろうけど!)


「どうしたんじゃ、赤也」
「…何でもないっス」
「プリッ」


詐欺師は俺を軽く叩くと笑ってコートに向かった。
…はぁあ〜…

でも、1つだけ救いがある。


「赤也!」
「…萩ちゃん!」


そう、萩ちゃん。
萩さんだけは俺に優しくしてくれる。


「立海と氷帝合わさるとすごい人数だねー。探すの苦労しちゃった」
「今日はレギュラーだけじゃないからな!」
「うん。後輩いっぱいいて良いね?」


さっきの詐欺師と同じように頭を叩くけど…全然違うその心地。
…萩ちゃんが部長と仲良しとか、信じたくない。


「って、そうそう」
「ん?」
「誕生日、おめでとう!」


ぱん!と一気に何かが弾けて、萩ちゃんの手に花で飾られた小さな箱が出てきた。
俺は一回、瞬きをした。


「うわ…!」
「ふふ、びっくりした?」
「すげー!さすが魔術師!」
「中身はクッキーだよ!…ブンちゃんに見付からないように食べてね。」


人差し指を口元に寄せてウインクすると、手を振って氷帝のメンバーの中に入っていった。


「…癒し系過ぎる…」


ありがとう、萩ちゃん。


「丸井には見付からなくても私には見付かってるんだなぁー」
「げ」


とう!と一段高い所から降ってきた夢先輩。
俺は、手元からクッキーを取ろうとするのを阻止する。


「すごい美人。誰?」
「え、知らないんスか?部長と仲良いのに。」
「知らなーい」
「滝萩之介先輩っつって、氷帝の準レギュラーですよ」


へぇー、と聞いておきながらまるで興味ないような態度で…またクッキーを狙っている。
しょうがないから1つだけ挙げることにした。


「ん、んまい」


モグモグと嬉しそうに食べる先輩。
…何だってんだよー…

確かに萩ちゃんはみんなが振り返るくらいの美人さん。
…そりゃあ女の子と間違うくらい。
大好きだし。

でも。


「…何?何かついてる?」
「い、いや、別に」


やっぱり、夢先輩が一番好き。


「赤也」
「ん?…んっ!?」
「誕生日プレゼント」


口に投げ込まれたのは、食べ掛けのクッキー。
そのままクルッと回って、さっき仁王先輩が向かったコートの方へ歩き始めた。


「…それ、萩ちゃんから貰ったやつッス!」
「それを私がもらって、赤也に挙げたんだよ!」


あはは、と楽しそうに笑う夢先輩。

…こんなに、嬉しいなんて。


「ちゃんとしたのくださいよ!」


正直、先輩が俺の誕生日を本当に覚えていたかは知らない。
…萩ちゃんとのやり取りを最初から見てただけかも知れないし。

それでも嬉しいのは、先輩だから。


…好きな人に誕生日祝われて、嬉しくならない人はいないだろ。



にやけてしまって口角が上がる口元を抑えながら、俺もコートに向かった。





(赤也!何をニヤニヤしている!たるんどる!)
(わ、すいませんって!)




- fin -




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