例えば、の話(財前) 「修学旅行の班わけ、明日までに決めぇやー。決まらへんかったら出席番順にしてまうからな。」 そう言って、担任は教室を去って行った。 …じゃあ私は居残りで結構です。 …いや、友達がいないわけじゃないんだよ? 「…そりゃあ、修学旅行なんて面倒なだけになるなぁ」 「あはは…」 周りの友達が同情の視線をくれる。 そう、私は…実は今回の修学旅行先である東京に、つい1ヶ月前まで住んでいた転入生。 …まさか、東京とは…。 楽しいことなんて何もない。本当に面倒なだけだ。 「おーい、木川」 「何、財前くん」 「もう班決まったか?うちの班あと女子1人なんやけど、お前入ってくれへん?」 頼むわ、と財前くんは手を合わせて私に頭を下げた。 特に班が決まってなかった私はうん、と頷いた。 「別に、構わないよ。」 「ほんまに?おおきにな。」 「でも何で私?」 「ん?…ほら、お前東京に住んでたやろ?うちの班、方向音痴ばっかでな。」 …なるほど。 複雑に見えるらしい、鉄道が張り巡らされた東京の地図を見ながら私は頷いた。 「…案内係の話くらいは聞いて欲しかったかな。」 「…堪忍な、木川…」 修学旅行2日目、自由散策。 …秋葉原に着いた途端、みんなは散ってしまった。 取り合えずみんな隠し持っている携帯で連絡を取りつつ、私は私で財前くんと楽しむことにした。 「何や、デートみたいやな」 「ぶっ」 …危うくアイスティーを吹き出すところだった。 歩くのに疲れて入った喫茶店。 他愛の無い話をしていたはずなのに、いきなり財前くんが笑いながら言うものだから。 「あぁ、すまんな」 「…いや、別に…」 頬杖をつきながら、珍しくニコニコ笑う財前くん。 …私服だし、まぁ周りから見ればそう見えるかも知れないけど。 「…付き合ってる訳でもないのに。」 「じゃあ、付き合う?」 「…っ、ケホッ」 今度は気管に入った。 むせ返る私に笑いながら、財前くんは私の後ろに回って背中を優しく撫でてくれた。 「…はぁ、やめてよ、変な冗談…」 「冗談やない、って言ったらどうする?」 少し低い声に、すぐ横にあった財前くんの顔を見る。 …さっきまでとは違って、至って真剣な顔つきの財前くんが、そこにいて。 「財前くん…?」 「冗談やない」 強い視線で私を見詰めて、それからふっと表情を緩めて、私から離れた。 「あぁー、おったわ!財前、夢ちゃん!」 「おぉ、お前らやっと来たか」 財前くんが離れてすぐ、みんなが集まってきた。 …いつの間にか財前くんが連絡をしていたみたい。 「ごめんな、夢ちゃん」 「う、ううん!」 女の子たちが駆け寄ってくる。 大丈夫だよ、と笑いかけていると感じる視線。 その視線の先を見れば、財前くんがいたずらに笑っていて。 私の顔が熱くなる。 「?どうしたん?」 「…何でもないよ!行こ、集合時間に間に合わなくなるよ」 「せやな!ほら、男子!行くで!」 出入り口に向かって歩いていくと、財前くんが私に並んだ。 「返事、楽しみにしとくわ」 ぽん、と頭を軽く叩くと財前くんは先に行ってしまった。 私は叩かれたところを撫でながら、その後に続いた。 (やっぱ、居残りすれば良かった) 落ち着き無い心臓を抑えて、私はため息をついた。 - fin - …あれ、また付き合わなかった← 可笑しいなぁ… 次財前ちゃん書くときはバカップルで書こう!と、思った← ゆずぽん、14000hitリクありがとう☆ |