ラッキーカラー、俺?(財前) 夏と言ったらキャンプやろ! …と、何ともアウトドア好きな発言を最初に言った、うちの学校の面倒な先公は一体誰だ。 もし生きているなら今ここで謝罪していただきたい。 日程は、2泊3日。 今日で終わりのはずだ。 何が楽しくて100人単位の面々でキャンプだ、と思う。 取り合えず夜な夜な騒いでいたクラスメートの寝顔を出来るだけ蹴飛ばさないように部屋を抜け出す。 大分使い慣れた炊事場の水道で顔を洗って、歯を磨く。 炊事場から直接外に出れるドアから、出てみる。 目の前には、然程大きくない湖。 小鳥の鳴き声が湖に響いている。 …のどかだ、実に平和的。 昨日の混沌が嘘のようだ。 …と、柄にもなくただその空気に浸っていると、湖の畔に誰かがいることに気付いた。 ジッと見詰めてみても、こちらには気付かない。 その風貌から見ると、多分、学校のヤツ。 「おーい、何してんねん」 静かな山に俺の声は良く響いた。 そいつはバッと振り返る。 「…財前くん…」 「あ、転入生…木川やったな」 「うん」 「何してるん?」 ただ佇んでいるようにしか見えない。 すると、木川はフッと視線を落としながら、湖を指差した。 「ここの湖、綺麗な青でしょ?」 「…せやな。」 「今日のラッキーカラーが青だから、見てたんだ」 変かな、と笑う顔には何故か不安げな影が見えた。 …普段、他の奴らなら見て見ぬフリをしていたと思う。 でも、どうしても気になって。 「どうしたん?」 「え?」 「何か、嫌に不安げやん。」 きょとん、と俺を見詰め、それからはは、とため息をつきながら、また笑った。 「…笑わないで聞いてね」 「おう」 「うちのお母さんがね、占いとか好きで、小さい頃からその日のラッキーカラーのヘアアクセサリーを付けて出掛けてたの」 ピンクのヘアピン、赤のカチューシャ、緑のゴム… いろいろあったんだよ、とベンチに座りながら木川は幸せそうに笑った。 俺も隣に座りながら、頷く。 「で、ね。青がラッキーカラーだった日に…私、青あんまり好きじゃなくて、つけていかなかったんだ。」 そしたら、と今まで辛うじてあった笑みが消えた。 何となく、嫌な予感がすると共に、木川の転入の理由を思い出した。 「お母さんが、死んじゃった。」 聞いた噂話では、元々シングルマザーだった木川の母親は交通事故でなくなって、木川は大阪の親戚を頼って東京からやってきた、とか。 その噂は確からしく、木川は俺に少し微笑んだあと、湖に視線を移した。 「その日以来、絶対ラッキーカラーの入った何かを持ってたんだけど…ほら、泊まり掛けだとさ…」 「青、無かったんか。」 「うん。だから、せめてもの、青の補充。」 湖に向かって両手をかざし、うーん、と卯なり始める。 俺は何やそれ、とツッコミを入れながら、ふと気付いた。 「せや、これからの予定俺と行動したらええねん」 「へ?」 「俺、今日青のポロシャツやから。」 …何度でも言おう、普段なら絶対にこんなことは言わない。 ただ、気になってしまったものは仕方ない。 「今日1日、カレカノや」 その発言をしとけば、回りも納得するだろう。 …ただ、帰ってからの先輩たちが怖いけれど。 木川は、さらにきょとん、と俺の顔を見詰めていた。 「次、あれに乗りたい!」 「…まぁ、アンタの好きにしたらえぇよ。」 最終日、普通そのまま帰るか町の自由散策…とかやろ。 遊園地って、何やねん。 お陰で各々楽しむために散ったのは助かったけれど。 特に興味の無い俺は、全部木川に任せきっていた。 「あ、でもあれ1時間待ちやで?」 「うあ、ほんとだ…」 「…ん、あれならすぐ入れそうやん。」 俺が見付けたのは、ゴンドラタイプのホラーハウス。 …木川の表情が凍る。 これはおもろそう。 「…本気?」 「本気や。ほな、行くで」 繋いだ手に力を入れて、ホラーハウスに引っ張る。 絶対恐いよー、と木川はじたばた。 俺の予想通り、ホラーハウスはすんなりと入ることが出来た。 4人乗りのゴンドラに2人で乗り込む。 「ああ、出発しちゃ…きゃあぁ!!」 「ただの蒸気や」 「でも…ひゃああ!!」 その後も、カラクリの鬼ババやら水滴やらにご丁寧に反応する木川。 こっちとしては、周りより木川の反応が面白くて仕方ない。 「わっ」 「ひゃ、な、何?」 「終いや」 出口が見えてきたから、過剰に反応してみる。 木川は、良かった、と胸を撫で下ろした。 「もう終いか、つまらんな」 「もう十分すぎるでしょ…!」 出来るだけホラーハウスから逃げた結果、観覧車に辿り着いた。 遊園地の最後の締め、と言えばこれだ。 「…今日は、ありがとう、財前くん」 「いや、別に…俺も楽しめたし、オアイコや。」 そう言えば、木川は微笑んだ。 俺は何と無くそれを直視出来ずに、視線を窓の外に移した。 「…あ、ヤバい、そろそろ集合時間みたいや」 「え?…あぁ、ほんとだ!」 「あー…あと15分は降りれへんで?」 「…あと20分だから、ダッシュすれば間に合うよ!たぶん!」 「じゃあそれまでは焦ってもしゃーないし、ゆっくりしよか」 うん、と素直に頷く。 何と無く、沈黙。 「あ、俺学校に戻ってからも部活あるんや。せやから、家まで送れへんけど…」 「い、いや、そこまでしてもらうのは悪いし…」 「…自分、ラッキーカラーのこと忘れとるやろ?」 「…あ、…」 …忘れてたな。 どうしよう、と今さら不安がる彼女。 おもしろいけど、意地悪はもう終い。 「これ、やるわ」 「?」 手を取り、持たせてやる。 木川は、小さいそれを落とさないようにそっと手を開いたら。 「…ピアス?」 「幸せの青いピアスってとこやな」 「でも、大切なものじゃ…」 耳から無くなった小さな違和感を見詰めて、首をかしげる。 「だから、毎日俺に返してや」 「え…」 「毎日、一緒におったらええやろ?」 俺は木川のピアスを着けてるから。 木川は俺にピアスを返すために。 「これからも、一緒に、おって」 分かりやすいようで、実にめんどくさい告白だと自分でも思う。 でも。 「ラッキーカラーの言うことに、間違いはないで?」 ラッキーカラーは君を幸せにする力を持ってるはず、だから。 - fin - ちなみに公式ではキャンプなんてイベント四天には無いはずです。 …四天のイベント表に…使えるのが無かった…お笑いツアーってなんね……← 告白に対しての答えは、皆様のご自由にどうぞ。 あわよくば断ってm(KY!! |