名前を呼んで、(白石)



練習試合に氷帝に行って、出会ったのが最初。

レギュラー陣のサポートに回る滝を追い掛ける、可愛らしい女の子。
滝が好きなのかと聞けば、姉みたいなものと答える。
滝にも聞いたが、可愛い妹みたいなものだと答えられた。


「彼氏が出来たら親より俺に先に報告してくれるって」
「マジで?」
「大マジ。…俺は厳しいよ?」


ふふ、と笑いながら滝は氷帝ベンチに走っていった。
…何や、保護者には気持ちバレとるやん。


「敵を射んとするなら、まず馬からっちゅーこっちゃな!」
「盗み聞きか、ケンヤ。」
「白石の片想いやで?オモロくないわけないやん!」


ゲラゲラ笑う謙也。
俺はそっぽ向いてやろうと視線をずらす。

…と、その先に彼女。
彼女もこちらを見ていて、ニコッと笑って近付いてきた。


「白石さん、謙也さん、こんにちは」
「こんちは、夢ちゃん!」
「いつも、頑張っとるな自分。ご苦労さん」


まだ面白がっている謙也を無視して、夢ちゃんに話し掛ける。
夢ちゃんはそうですか?と首をかしげた。

…かわえぇな、このやろ。


「あ、萩先輩に白石さんのタオルしか貰ってなかったです」
「ええで、俺は侑士からかうついでに自分で取りに行くから。滝に聞けばええねんな?」
「はい。…からかうのは程々にお願いしますね」


謙也は込み上げてくるらしい笑いを堪えることなく、ニタニタしたまま去っていった。
…アイツ、後で見とき?


「白石さん、謙也さんと仲良しですね」
「そんなことないで?…夢ちゃん、謙也は名前で呼ぶねんな」
「え?そりゃあ、忍足先輩と被りますから」


…まぁ、確かにそれはそうなのだけれど。
何でか腑に落ちないのは…多分、嫉妬ってやつの所為。


「じゃ、俺のことも下の名前で呼んでみ?」
「え…白石さん、被らないじゃないですか」


…まぁ、確かにそれもそうなのだけれど。


「俺も下の名前で呼んでるやん」
「えー…何か、照れますよ」


そう言ってはにかむ。
…かわえぇのは分かったから。


「くらのすけ、さん?」
「…、」


何やろ、新婚夫婦みたいやな。
初々しいその態度に、思わず言葉を失った。


「…なんてゆーか、俺の名前ちゃんと知っとったんやな」
「もちろん!萩先輩と2文字違いですし」
「……そーゆー覚え方か。」


はぎのすけ、とくらのすけ。
確かに、「萩」か「蔵」かの違いやな。
少々覚え方には納得いかないものの、今日は名前を呼んでくれただけでよしとしよう。


「?何笑ってるんですか、」
「ん?俺笑っとる?」
「はい」


つられたように、君も笑うから。
タオルを受け取って、誤魔化すように自分の顔に被せた。





(あ、蔵先輩で良くないですか?)
(へ?)
(萩之介、で萩先輩ですから。)
(………せやな。)





- fin -




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